2022 Fiscal Year Research-status Report
p53ネットワーク破綻によるトランスクリプトーム情報を基盤とした食道癌治療戦略
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21K08801
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
足立 靖 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (10531189)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 泰史 札幌医科大学, 医療人育成センター, 教授 (70322328)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 食道扁平上皮癌 / p53 / 機能獲得変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん抑制遺伝子p53は、ヒト悪性新生物において最も高頻度に遺伝子変異が検出されているが、変異p53自体は現時点で治療標的とはなっておらず、臨床で使用可能な分子標的薬は存在しない。一方、食道癌は早期より広範なリンパ転移をきたしやすい予後不良な消化器癌のひとつであり、本邦ではその80%-90%は扁平上皮癌である。本研究では、高頻度にp53の変異を認める食道扁平上皮癌(esophageal squamous cell carcinoma: ESCC)に着目し、p53の機能獲得(Gain of function: GOF)変異によって起こるトランスクリプトームの変動を効率的に分析し、その機能解析を行う。さらに発現異常、遺伝子変異の有無、悪性度および治療効果との関連性を解析することで、p53ネットワーク破綻の機序を標的としたESCCに対する治療法開発の基盤形成を目指している。 本研究の目的は、ESCCにおいて変異型p53のGOF変異によって影響を受けるトランスクリプトームの全貌を解明し、p53ネットワークのさらなる理解に繋げることである。さらに、変異型p53を分子標的とした治療法の開発につながる基礎的な研究を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
札幌医科大学附属病院およびその関連施設から、食道扁平上皮癌(ESCC)の癌組織、非癌部組織、リンパ球の検体の供与を受け、DNA、RNAを抽出した。それらを用いて、p53の機能獲得(GOF)変異によって起こるトランスクリプトームの変動を分析している。さらに、機能解析へと展開している。 一方、食道におけるepidermization(表皮化)は白色扁平隆起として認めることがある。非常に稀なepidermizationを伴う高分化ESCCの一例を解析した。その癌は免疫染色でp53がびまん性に陽性であり、次世代シーケンサーによる解析でTP53 missense mutation (c.733G>T, p.Gly245Cys)を検出した。さらに、種々のCopy number variations (CNV)を伴っていた。学会で報告すると共に現在、専門誌へ投稿している。 最近、悪性貧血を伴う自己免疫性胃炎の患者に胃悪性腫瘍が発生しやすいことが注目を集めている。我々は、悪性貧血を伴う自己免疫性胃炎の患者に、胃癌とESCCを同時発生した症例を経験した。次世代シーケンサーによる解析で両癌においてTP53変異を含む遺伝子変異を認めた。引き続き、p53ネットワークの解析を行う予定としている。 GOF活性を評価するために、変異型p53発現プラスミドとアデノウイルスベクターを作成した。正常上皮細胞株およびESCC細胞株に変異型p53の強制発現を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
食道扁平上皮癌(ESCC)では、変異型p53の機能獲得(GOF)変異のp63機能異常への寄与度は限定的と思われる。ESCCにおいてp53変異はほぼ必発し(かつ60%以上がmissense mutation)、複数ヶ所に認める症例も少ないことから、未知の変異型p53のGOF変異の効果が存在すると考えられる。そこで変異型p53と発現が関与する遺伝子の網羅的解析に留まらず、これまで検討されていないGOF変異の機能に焦点を当てたRNA-seq解析を行う計画である。また、変異型p53に対する分子標的治療薬の開発は遅れており、種々のmissense mutation TP53と結合して機能を回復させる小分子化合物(PRIMA-1等)が僅かに報告されている。本研究では、変異型p53のGOF変異に関わるトランスクリプトームの解析を皮切りとして、p53変異を有する悪性新生物に対する新たな治療戦略の開発を目指している。 転写活性化能、DNA結合能、および腫瘍原性解析から、GOF変異活性を検討した変異型p53発現プラスミド・アデノウイルスベクターを用いて、変異型p53のGOFによって変化するトランスクリプトームを抽出する計画である。変異型p53のGOF変異によって発現が低下するトランスクリプトはがん抑制的に機能することが推測されるので、癌細胞株・癌組織における遺伝子異常を分析する予定である。さらに、発現誘導系、および発現抑制系を構築して、機能解析を行う計画である。特に細胞増殖、細胞運動能、浸潤能、アポトーシス誘導能への影響について詳細に評価する予定である。
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Causes of Carryover |
正常食道上皮細胞の培養条件が厳しく、遺伝子導入実験が軌道にのるまでに予想以上の時間を要した。そのため、予定より研究の遂行が遅れており、研究費の使用額が少なくなった。現在、変異型p53の遺伝子導入が安定しつつあるため、研究の遅れを取り戻すために努力している。従って、昨年度の研究費の未使用分は本年度で執行予定である。 さらに、当初から本年度に行う予定であった研究も同時並行で進める予定である。
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[Journal Article] Serum soluble Fas levels and incidence of liver cancer in nested case-control study.2023
Author(s)
Adachi Y, Nojima M, Mori M, Kubo T, Akutsu N, Sasaki Y, Nakase H, Lin Y, Kurozawa Y, Wakai K, Tamakoshi A.
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Journal Title
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.
Volume: 32
Pages: 260-265
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 血清SOD活性と大腸癌罹患リスク.2022
Author(s)
2.足立 靖,野島正憲,森 満,久保俊之,山野泰穂,佐々木泰史,仲瀬裕志,遠藤高夫,林 櫻松,若井建志,玉腰暁子.
Organizer
第81回日本癌学会学術総会
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