2023 Fiscal Year Research-status Report
Patient specific assessment of hemodynamics by computational fluid dynamics in patients with acute non-A non-B aortic dissection
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21K08828
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 教授 (20382898)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂元 尚哉 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (20361115)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
岡村 誉 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70438646)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | nonA-nonB型大動脈解離 / 数値流体力学研究 / 血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、急性nonA-nonB型解離の特徴的な血流動態を数値流体力学研究:computational fluid dynamics(CFD)を用いて解析するとともに、血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養shear stress負荷モデルを使用したin vitro実験を行い、血行力学負荷が大動脈組織の構造変化に及ぼす影響を解明することを目的としている。 今回、急性non-A non-B 解離で発生頻度が高いことが報告されている腹部臓器灌流障害に着目しCFD解析を施行した。症例は70歳男性で下行大動脈に位置するentryを閉鎖する大動脈ステント移植術(TEVAR)を施行し、腹部臓器の灌流障害は改善した。CFD結果は、上腸管膜動脈における収縮期の血流減少と治療後の50%以上の血流改善を示した。本結果は、2023年欧州心臓胸部外科学会で発表し、2024年論文発表した(Interdiscip Cardiovasc Thorac Surg. 2024;38:ivae047)。 in vitro実験は、血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養shear stress負荷モデルを構築し,shear stress負荷が血管内皮細胞を介して血管平滑筋細胞の形態変化を及ぼす影響を調べた。結果は、血管平滑筋細胞の単培養モデルでは,流れに直接暴露される表層の血管平滑筋細胞が流れ方向に対して平行に配向した。一方、共培養モデルでは,表層の血管内皮細胞は流れ方向に対し平行に配向し、収縮型血管平滑筋細胞は全層において流れ方向に対し垂直方向への配向を示した。血管内皮細胞がshear stressの方向を含む力学環境情報を平滑筋細胞に伝達した結果、共培養モデルで見られた血管平滑筋細胞の垂直配向現象が発生した可能性が示唆された。本結果は、2023年度日本機械学会年次大会(2023年9月3日- 6日東京)で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度は、今後のin vitro実験の礎となる急性nonA-nonB型大動脈解離のCFD研究を国内外の研究機関に先駆けて論文発表した(Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2022;35:ivac138.)。上記の研究結果を踏まえ、自治医科大学と共同研究機関である名古屋工業大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、急性nonA-nonB型大動脈解離の血流病態に関する研究を現在実施している。 また、急性nonA-nonB型大動脈解離は高頻度に臓器灌流障害を合併する。腹部内臓臓器灌流障害を合併した症例に対する大動脈ステント治療の有用性を評価する血流解析研究も現在実施しており、2024年度論文発表した(Interdiscip Cardiovasc Thorac Surg. 2024;38:ivae047)。今後も、大動脈解離発症後、急性期に発生する臓器灌流障害の病態と治療に関する血流解析研究を実施する予定である。 血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養のin vitro実験は、現在、東京都立大学システムデザイン研究科坂元尚哉准教授の研究室と共同で実施している。これまでのCFD解析で急性nonA-nonB型解離は、急性B型解離と比較し、偽腔内の血行力学ストレスが増加する傾向を認めている。血管内皮細胞-血管平滑筋細胞共培養モデルの他、慢性大動脈解離の偽腔壁構造に類似した血管平滑筋細胞が直接血行力学ストレスに暴露される実験モデルも導入し、血行力学ストレスが血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の恒常性変化に及ぼす影響を解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、急性nonA-nonB型解離症例と急性B型解離症例の臨床データを使用した血流解析研究を継続する予定である。具体的には、急性大動脈解離(急性nonA-nonB型解離・急性B型解離)の診断で緊急入院する症例のうち、CFD解析が実施可能な偽腔開存型大動脈解離症例を対象として、偽腔圧/真腔圧比の他、真腔・偽腔それぞれで壁剪断応力や血液灌流量を計算し、多くの血行力学パラメーターを使用して急性nonA-nonB型大動脈解離の特殊な血流動態を評価する予定である。 臨床研究では、急性nonA-nonB型解離症例と急性B型解離症例の両群で、発症早期~中期にかけての大動脈の形態変化(大動脈拡大/偽腔消失など)を造影CT検査で評価するとともに、遠隔期の血管イベント(大動脈拡大・手術治療の実施・再解離など)と生存率も両群間で比較検討する。 急性nonA-nonB型解離症例と急性B型解離症例の入院中の末梢血から血漿成分を抽出し、microRNAを精製する。両群間でmicroRNAによる網羅的遺伝子発現解析をマイクロアレイ法により実施し、急性nonA-nonB型解離で発現増強するnon coding RNAを決定する。バイオインフォマティクス解析で、nonA-nonB型解離で発現増強する血行力学ストレスに関連する疾患経路を同定する。その後、in vitro実験で機能解析を行い、血行力学ストレスがnonA-nonB型大動脈解離の大動脈組織に及ぼす影響を解明する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した主な理由は、急性nonA-nonB型大動脈解離症例及び急性B型大動脈解離症例からの血液サンプル収集に遅滞を生じたことが主な原因である。急性nonA-nonB型大動脈解離は、急性大動脈解離全体の10%と頻度が少ないため、今後血液サンプルを採取する医療機関を増やす他、急性A型解離症例からの血液サンプル採取も行う予定である。 現在、対象症例からの血液サンプルを収集している状況でもあり、血液サンプルを 使用した実験を今後推進していく予定である。 繰り越し金を含めた令和6年度の使用額は約150万円である。本年度の関連研究への費用に関しては、CFD解析のための設備投資として、コンピューターのメモリ増設費用や専用の血流解析ソフトウエア(SC flow)の関連費用に10万円、RNA精製費用に10万円、DNAマイクロアレイ関連経費に50万円、バイ オインフォマティクス解析費用に10万円、in vitro実験のための培地、細胞株、試薬・抗体購入費用に30万円、英文校正/論文出版費用に20万円程度の支出を予測している。また、急性大動脈解離の最新の診断、治療方法についての知見を広げ、さらに追加実験などのアイデアを得るために国内学会、国際学会などに参加するための旅 費、参加費やその他消耗品購入費に20万円程度を予定している。
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