2023 Fiscal Year Research-status Report
がん転移におよぼす麻酔薬の相違:腫瘍免疫に注目したin vivo転移モデルの解析
Project/Area Number |
21K08918
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
松尾 光浩 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (70361954)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 麻酔薬 / サイトカイン / プロポフォール / セボフルラン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、がん手術時の麻酔方法(静脈麻酔または吸入麻酔)が、マウスのサイトカインの変化にどのように影響を与えるかを調査した。7週齢のC57BL/6マウスにプロポフォール(1.5mg/kg/hr)またはイソフルラン(1.5%)を投与し、麻酔直後と3時間後に血液を採取。使用された抗体アレイは、308種類のサイトカインを含むもので、得られたデータはGenePatternを用いて解析された。解析では、サイトカインの発現量を対数変換し、麻酔方法と時間を説明変数として重回帰分析を行い、P<0.05(Bonferroni補正後)を有意差の基準とした。 結果、麻酔方法によるサイトカインの発現変動が明確に示され、プロポフォール投与群ではIL-1-R2、IL-17A、TIMP-4、IL-5の発現が有意に上昇していた。これは、麻酔方法がサイトカインレベルに大きな影響を及ぼし、恐らく手術後の予後にも影響する可能性があることを示唆している。また、主成分分析により、データの70.7%が3つの主成分で説明可能であることがわかったが、群間でのデータのばらつきも指摘された。この研究は、麻酔方法選択が患者の予後に影響を与える可能性があることを示しており、より詳細な検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の進捗状況としては、一貫した動物実験結果を得ることが困難である点が挙げられる。この課題には三つの主な理由がある。第一に、マウスのバイタルサインの評価が困難なことである。臨床では血圧や脈拍数、酸素飽和度、体温などを連続的に測定することができる上、脳波や組織酸素飽和度のモニタリングも行われているが、マウスではこれらの測定が困難で、視診による呼吸数や体動の観察に頼らざるを得ない。第二に、気道管理ができないことである。ヒトでは麻酔薬を使用する際、呼吸抑制や低酸素状態を防ぐために気道管理が行われるが、小動物であるマウスでは気道確保が事実上不可能である。第三に、手術侵襲に対する対応が困難であることである。これらの要因により、群間でのばらつきが大きくなっており、現在の方法ではその改善が難しいと判断されている。これらの課題への対処として、改善策の模索が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、現在の研究方針の課題を克服するため、新たにロボット支援下前立腺全摘術(RARP)を受けた患者の血清を用いた解析に方向転換する。この変更の主な理由は以下の三点である。第一に、RARPは開腹術に比べて手術侵襲が小さく、出血量や術後合併症が有意に少ないため、サイトカイン変化への手術自体の影響が小さいとされる。第二に、RARPでは術中にバイタルサインが詳細に測定され、観血的動脈圧や組織酸素飽和濃度のモニタリングが一般的であり、これによりバイタルサインの変化を考慮したデータ解析が可能である。第三に、RARPの対象患者は男性であり、かつ高齢者が少ないため、患者背景が比較的均一で、交絡因子が少なく、少ない症例数でも研究を行うことが可能である。
この研究は富山大学の倫理委員会の承認を受けており(審査番号:R2023095)、UMIN臨床試験登録システムにも「周術期の血中サイトカイン変化量におよぼす全身麻酔薬の影響:オープンラベルランダム化比較試験」として登録されている(UMIN試験ID:UMIN000052040)。これにより、手術中のサイトカインの変動をより正確に評価し、麻酔薬の影響を明らかにすることが期待される。
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Causes of Carryover |
次年度に繰り越しとなった予算は、臨床業務の繁忙により、予定していた実験活動が十分に行えなかったためである。来年度はこれまでの実験計画を見直し、時間管理を徹底することで、研究活動を効果的に進めていく計画である。
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