2021 Fiscal Year Research-status Report
MRI・バイオマーカーによる脳循環自動調節能メカニズム解明及びAIによるその評価
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21K09092
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井上 敬 東北大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (70326651)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
冨永 悌二 東北大学, 大学病院, 教授 (00217548)
新妻 邦泰 東北大学, 医工学研究科, 教授 (10643330)
園部 真也 東北大学, 大学病院, 助教 (30869079)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | AI / tRNA由来物 / バイオマーカー / 神経損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まずバイオマーカーによる神経損傷程度推定法を検討した。脳主幹動脈閉塞例に対し、急性期血行再建術を施行した症例を対象とした。神経損傷バイオマーカーとしては、研究者らがこれまで報告してきたtRNA由来物を測定した。脳神経損傷程度はこれまでMRI拡散強調像で評価されることが一般的であった。しかし、MRI拡散強調像では、すでに非可逆的な損傷を受けていても、所見として捉えることができない偽陰性症例や、その逆に可逆的損傷にもかかわらず、所見が出現する偽陽性の症例が存在する。本研究では、拡散強調画像を取得するタイミングで採血した血漿からtRNA由来物を定量的に測定した。神経損傷は3ヶ月後の神経学的検査で判定することとした。その結果、tRNA由来物はMRI拡散強調像よりも鋭敏に神経損傷を評価できることが判明した。この結果は現在英文誌に投稿中である。 さらに、AIによる神経機能評価法の基礎的な検討も始めた。AIによるdeep learning はこれまでの統計学的手法では抽出困難な危険因子を同定できる可能性がある。しかし、deep learningでは古典的統計学的手法に比べ、必要症例数が飛躍的に増加する。脳循環予備能推定が本研究の最終目標であるが、本年度はまずは十分な症例数のある疾患でAIによる神経機能評価法を確認した。対象としては慢性硬膜下血腫手術例約200例を対象とした。統計学的手法では術後神経機能回復が遅れる危険因子として、年齢・術前意識レベルなどが抽出された。AIを用いた検討では、これら以外にリハビリテーションの有無が、術後神経機能回復と関係があることが示唆された。統計学的手法ではリハビリテーションの有無は交絡因子とされたが、AIでの検討では独立因子と判定された。今後はさらに症例数を増やすことにより、どちらがより臨床的に有効か研究を続けたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、5年間で4つのメインテーマを完遂し、さらにその4つを統合的に評価する手法を開発し、それを持ってして脳卒中診療にインパクトを与えることを目標としている。 本年度は4つのメインテーマ、すなわちMRIによる検討、バイオマーカによる検討、過灌流モデル動物実験、AIによる検討のうち、バイオマーカーによる検討およびAIによる検討を始めることができた。バイオマーカーは研究者らが既に脳卒中領域での有効性を報告していたtRNA由来物を採用した。1年間で急性期に神経損傷を鋭敏に捉えることを発見した。これまでの画像診断に、バイオマーカー診断を加えることにより、より適切な症例選択が可能となる可能性が示唆された。今後は慢性期症例での検討追加や、簡易検査キットの開発などを想定している。 AIによる検討も基礎的な部分から開始することができた。AIによるdeep learningは様々な分野での応用が期待される。医療分野で応用する場合に問題となるのは、かなり多数例を検討しないと臨床的に有効な結果が出ないことである。そこで本研究では、研究期間を通じて症例数を蓄積することにした。本年度は症例数の多い疾患に集中してAIによる検討を行った。脳神経外科領域では慢性硬膜下血腫は手術症例も多く、その検討は臨床的feedbackも多数期待される。これまでも統計学的手法により、術後神経症状増悪の危険因子がいくつか報告されてきた。高齢であること、術前意識状態が不良であることは、これまでの報告同様、今回の研究でも危険因子と判定された。AIではさらにリハビリテーションの有無が抽出された。今後はその臨床的意義をさらに検討したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目以降は、動物実験、MRIによる検討も基礎的な部分から開始したい。動物実験は既に研究者らが開発済みの過灌流モデルマウスを使用する予定である。過灌流現象は臨床的にも観察される事象であるが、その機序は未だ不明である。動物実験で、脳血流自動調節能が破綻した部位をまず確認する予定である。その上で、生化学的な手法を用いることにより、過灌流現象発現メカニズム解明に挑みたい。抵抗血管周辺の細胞内カルシウム濃度低下が重要な役割を担っていると予想している。 MRIも拡散強調画像のみでは神経損傷を正確に評価することは困難と予想している。pH測定・白質神経線維画像を組み合わせることにより、急性期症例で不可逆的神経損傷領域を描出することを試みる予定である。さらに慢性木症例では可逆的な神経損傷を描出することを予定している。脳循環予備能が低下した症例では将来の脳梗塞リスクが増加するが、これまでは核医学的手法が必要とされてきた。MRIによるpH測定、脳血流測定が脳梗塞リスク評価可能か、あるいは手術適応決定に寄与しうるか、検討する予定である。 バイオマーカーによる検討、AIによる検討も引き続き行う予定である。それぞれ1年目である程度の課題は抽出できたと考えている。2年目以降は症例数を増加させるとともに、手術症例・血管内治療症例の検討も加えていきたい。治療前と治療後の結果を検討することにより、手術適応決定に関与する因子の抽出を行う予定である。さらに、多数例をAI解析することにより、いくつかの手術手法から、どの手法が最も優れた結果を出すことができるか、術前に決定するためのプログラムを作成可能と予想している。 最終的には、脳循環予備能機序解明・画像診断・バイオマーカー診断をAI処理することにより、臨床応用への礎としたい。
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Causes of Carryover |
今年度は、主にバイオマーカー、AIによる研究を優先させた。今年度は予定より動物実験、MRIによるpH測定などの研究が十分行うことができなかった。そのための経費が予定よりも減額したために、次年度使用額が生じた。 次年度も引き続きバイオマーカー、AIによる研究も行う予定である。そのための薬物経費、アプリケーション調達の費用が必要と考えている。また、AIに関しては、スタンドアロン型のアプリケーションではなく、クラウド型を使用することにより、より効率的な運用が可能となる。そのための経費も次年度以降必要となる。加えて、動物実験、MRIによる各種シーケンスでの撮像も次年度以降はさらに増加する。そのための費用も必要と考える。
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