2021 Fiscal Year Research-status Report
微小環境を基盤とした中枢神経系原発悪性リンパ腫の本態解明と新規治療標的の探索
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21K09106
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
西 真由子 横浜市立大学, 医学部, 助教 (90635343)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脳腫瘍 / 悪性リンパ腫 / 微小環境 / 細胞間相互作用 / ペリサイト |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)は、脳腫瘍全体の約3%と比較的まれな疾患ではあるが、近年統計学的に増加傾向にある。約90%のPCNSLはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり、血管周囲腔に沿って脳実質内に広範囲に渡って浸潤する。現在の標準治療のみでは再発が必発であり、5年生存率は30%から50%と全身性悪性リンパ腫と比較しても予後不良である。このことからも、新たな治療法の開発が急務となっている。 PCNSLは、脳血管周囲に沿って進展・増殖することが知られている。我々の予備検討から、血管周皮細胞(ペリサイト)から分泌された物質が細胞外マトリックスを介して近接したPCNSL細胞に作用することで増殖・維持されるという仮説を立てた。はじめに、コラーゲンビトリゲル膜をインサートに使用し、ペリサイトとPCNSLを両面培養できる培養系を樹立し、PCNSLがin vitroで増殖することを確認した。続いて、ペリサイト由来分泌因子およびそれらを受け取ったPCNSL細胞内の変化について多角的に考察し、この分子メカニズムに関わる責任因子の特定を試みた。まず、標的因子が既知である低分子化合物ライブラリーを用いて、ペリサイトとの両面培養によるPCNSL増殖を阻害する薬剤のスクリーニングをおこなったところ、抗エクソソーム作用を持つスフィンゴミエリン(sphingomyelin)のホスホジエステラーゼ(N-SMase)阻害剤がヒットした。そこで、ペリサイト由来エクソソーム中に存在するmiRNAの関与について解析するため、ペリサイト培養上清からエクソソームを抽出し、エクソソームRNAを精製した。また、これとは別に、PCNSL細胞内のリン酸化シグナルの関与が示唆されたため、リン酸化タンパク質の機能調節に重要な因子であるPIN1の関与について、特異的阻害剤を用いて確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ad-MEDビトリゲルを活用し、患者から採取されたPCNSL細胞とペリサイトを両面培養することで、PCNSLの生存に必要最小限の微小環境を維持する生体外培養系を構築した。続いて、ペリサイトとの両面培養により活性化する細胞内シグナルを特定するため、標的既知の化合物ライブラリーを用いて、この作用を阻害する薬剤のスクリーニングをおこなったところ、エクソソーム阻害剤として知られるGW4896およびU18666Aがヒットした。その後の解析から、これらの薬剤は一般的な細胞生存には影響せず、濃度依存的にペリサイトのPCNSLの増殖促進作用を抑制することが示された。このことから、ペリサイトから分泌される機能性因子はマイクロRNAなどエクソソーム中に存在すると仮定し、エクソソーム解析を行うこととした。ペリサイト培養上清からエクソソームを抽出し、エクソソーム由来RNAを精製した。コントロールには、アストロサイトのエクソソーム由来RNAを抽出した。これらを試料として、現在、次世代シークエンサーを用いたRNA-seq解析を行なっている。また、ペリサイトとの両面培養によりPCNSLにおいて活性化するリン酸化シグナルを特定するため、リン酸化結合タンパク質であるPin1に対する抗体を用いてin situ近接ビオチン標識を行い、ストレプトアビジンビーズを用いて回収した。質量分析を用いた解析をおこなったところ、細胞増殖や生存に関与するシグナル関連因子が複数同定された。
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Strategy for Future Research Activity |
ペリサイト由来のエクソソーム中に内包しているマイクロRNAについて、次世代シークエンサーを用いてRNA-seq解析を行う。続いて、これらの結果から、マイクロRNAにより発現の制御を受ける遺伝子群を明らかにし、バイオインフォマティクスを用いたパスウェイ解析などにより、関連する細胞内シグナルを推定する。つぎに、それぞれのマイクロRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加し、ペリサイトと両面培養時のPCNSL増殖変化について考察する。 また、もう一つのアプローチとして、リン酸化セリン/スレオニン-プロリンモチーフに結合する異性化酵素であるPin1と相互作用するタンパク質群を、質量分析計を用いたペプチドマッピングにより明らかにする。同定された因子やパスウェイについては、shRNAや特異的阻害剤を用いて、ペリサイトとの両面培養時におけるPCNSL内での発現変化について検討する。また、PCNSL細胞において当該因子をshRNAにより抑制したときの細胞増殖変化についても併せて検討を行う。
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