2022 Fiscal Year Research-status Report
微小環境を基盤とした中枢神経系原発悪性リンパ腫の本態解明と新規治療標的の探索
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21K09106
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
西 真由子 横浜市立大学, 医学部, 助教 (90635343)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脳腫瘍 / 悪性リンパ腫 / 微小環境 / 細胞間相互作用 / ペリサイト |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、ヒト由来中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)細胞を、脳血管由来周皮細胞(ペリサイト)とad-MEDビトリゲルを用いた両面培養を行うことでin vitroで増幅させることに成功した。これらはペリサイトとの共培養により、生体内微小環境の一部が再現できた可能性が示唆された。そこで、その分子機構に関わる責任因子を特定するため、標的因子が既知である低分子化合物ライブラリーを用いて、ペリサイトとの両面培養によるPCNSL増殖を阻害する薬剤のスクリーニングを行った。その結果、リン酸化タンパク質の機能調節に重要な因子であるペプチジルプロリルイソメラーゼPin1の関与が示唆された。そこで、ペリサイト共培養時にPCNSL細胞においてPin1と相互作用するリン酸化タンパク質の探索を行なった。In situ近接ビオチン法標識法によりPin1と近接するタンパク質を回収後、質量分析計を用いて同定したところ、ペリサイト両面培養時のみでPin1と結合する因子群を複数同定した。その中には、B細胞リンパ腫における腫瘍原生への関与が報告されているIRF-4が含まれていた。実際にIRF-4ノックダウンによりPCNSLの増殖が顕著に阻害された。また、別のアプローチとして、Cytokine-cytokine receptor interactionアレイを用いたアッセイにより、ペリサイトーPCNSL相互作用の1つとしてHGF-c-MET pathwayの関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究協力者の立石らの研究グループは、手術にて得られた腫瘍組織検体に細胞化処理を行い、免疫不全マウス(SCID Beige)の脳内に移植することで、これまでに12種類以上のヒト由来PCNSL細胞株(PDX)モデルの樹立に成功した。一方、これらの細胞株のほとんどは、in vitroにおける培養が困難であったため、生体内微小環境を模したin vitro共培養系の開発が急務であった。我々は、組織再構築に有用なコラーゲンビトリゲル膜インサートを用いた脳血管由来周皮細胞(ペリサイト)との両面培養により、in vitroにおいてPCNSL細胞の増殖が維持できることを初めて発見した。これらにより、ペリサイト由来液性因子による腫瘍形成・進展機序の解明につながることが期待される。予備実験としてPCNSL増殖を阻害する薬剤のスクリーニングを行ったところ、エクソソーム阻害剤がヒットしたことらから、ペリサイト培養上清からエクソソームRNAを抽出し、RNA-seq解析を行ったが、有望なマイクロRNAなどは見出せなかった。そこで、並行して行っていたCytokine-cytokine receptor interactionアレイを用いたスクリーニングを行ったところ、ペリサイトーPCNSL間でHGF-c-METを介した相互作用の関与が示唆された。実際に、リコンビナントHGFを加えると、ペリサイト非存在下でもPCNSLの増殖が認められたことから、HGF-c-METに引き続くリン酸化シグナルの関与が示唆された。リン酸化タンパク質の機能調節に重要な因子であるPIN1を用いて責任因子の探索を試みたところ、IRF4を含む複数の候補因子を同定することできた。今後は、これらの機能的相互作用の分子機構についてさらに詳細な解析を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、ペリサイトーPCNSL間でHGF-c-MET アクシスを介した相互作用が見出されており、それらの下流で機能するPin1相互作用因子を複数同定することができた。今後は、これらの因子のPCNSL増殖や進展における機能や役割を精査し、論文としてまとめる。また、エクソソーム解析によって得られた13個の候補責任因子について、ノックダウン実験および過剰発現実験を行い、PCNSLの増殖に変化が見認められなかったが、PCNSL細胞への遺伝子導入効率に問題がある可能性がある。今後は、確実に候補責任因子が遺伝子導入される条件を検討し、ペリサイトが分泌するエクソソームもまたPCNSL増殖に関与するかを調べる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:横浜市立大学から国立感染研究所への急な異動が決まり、日時を要する実験を一時的に中止せざるを得ない状況となった。そのため、関連する試薬・消耗品の購入を2023年1月以降に停止したため、残額が発生した。なお、延期した実験は次年度中に実施可能である。 使用計画:これまでに、ペリサイトーPCNSL間における、HGF-c-MET アクシスを介した機能的相互作用がPCNSLの増殖に関与していることを見出している。次年度は、これらの下流で機能する因子群の探索と機能解析を実施する。具体的には、PCNSL細胞内において、ペリサイト共培養下で特異的にリン酸化かつ異性化される因子群について、Pin1を用いたプロテオーム解析ならびに質量分析計を用いたペプチドマッピングにより探索する。同定された因子の役割やシグナル伝達経路について、GO解析やパスウェイ解析などのバイオインフォマティスクツールを用いて検討する。また、上記のスクリーニングおよび昨年度に実施したエクソソーム解析によって得られた候補責任因子について、shRNAを用いたノックダウン実験および過剰発現実験を行い、PCNSL細胞の増殖や悪性形質に変化が見られるか確認する。さらには、候補責任因子が遺伝子導入される条件を検討し、ペリサイトが分泌するエクソソーム以外の分子についても併せて検討する。
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