2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K09176
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
道上 宏之 岡山大学, 中性子医療研究センター, 准教授 (20572499)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ホウ素中性子捕捉療法 / 悪性脳腫瘍 / ホウ素薬剤 / 悪性腫瘍 / グルコース輸送体 / プレシジョンメディスン / 創薬研究 / 糖輸送体標的薬剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、標的となる悪性腫瘍細胞へホウ素薬剤を導入させ、同部位に中性子を照射し、ホウ素と中性子の核反応により腫瘍細胞を殺傷する細胞レベルのがん治療法である。そのため、治療成功の鍵は、腫瘍細胞選択的にホウ素薬剤を取り込ませる点に大きく依存する。現在のBNCT使用のホウ素薬剤は、アミノ酸(Phe)にホウ素(10B)を付けたBPA(Borono PhenylAlanine)1剤である。癌高発現のアミノ酸輸送体(LAT-1)を介して腫瘍細胞内部へ導入されるが、その取り込みは腫瘍組織内で不均一であり、取り込みのない腫瘍細胞よりの再発が問題である。 今回我々は、悪性神経膠腫予後不良疾患にて高発現のグルコース輸送体(GLUT)に着目し、GLUTを介しての腫瘍特異的な取り込み能を有する新たなホウ素薬剤の(糖ホウ素製剤)開発に成功した。同時に腫瘍組織の遺伝子解析にて、ホウ素薬剤の標的遺伝子を新たに探索・決定した。悪性脳腫瘍と並んで予後不良である膵癌にてGLUT高発現であることを発見して、本薬剤の投与を行い評価を行ってきた。今後、複数のホウ素薬剤(糖-ホウ素薬剤+BPA併用)を用いた新規プレシジョンBNCTへの前臨床研究を本シーズにて行う。 悪性脳腫瘍の細胞株を数種類用意するのと同時に、CCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)と呼ばれる細胞株に関するデータベースを用いた遺伝子解析を行った。がんにおいては、アミノ酸対処が亢進していることが有名であるが、糖の代謝が亢進していることも知られている。糖は、グルコース輸送体と呼ばれる細胞膜にある関門より通過して細胞内に導入され、利用される。今回、がんに高発現しているGLUT1,GLUT3が、悪性脳腫瘍細胞株にて高発現していること、さらに膵がん細胞においても同様な高発現があることが解析の結果判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホウ素薬剤は正常細胞に入り、中性子を照射すると、正常細胞にも同様にダメージを与える。そのため、腫瘍選択性がホウ素薬剤には必須である。さらに、大量のホウ素薬剤を使用することを避けるために、1分子内のホウ素含有率を高めたホウ素薬剤のデザインをすることが重要である。新規糖結合型ホウ素薬剤のデザインの検討を繰り返して、研究協力者と共に合成に成功した。質量分析装置、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、ICP(高周波誘導結合プラズマ)などにより、物性についての実験を行った。悪性脳腫瘍細胞での導入について初期実験で確認した。GLUT阻害薬を投与して、細胞内への導入がほぼ阻害されることを確認した。次に、膵がん細胞株を使っての実験に取り掛かっている。悪性脳腫瘍及び膵癌細胞株の培養技術およびホウ素濃度測定技術、動物モデルによる薬物動態手法を確立した。博士課程後期大学院生と共に本研究へ従事する。本研究結果から、特許取得及び製薬企業との交渉を経て多剤のホウ素薬剤によるBNCTの臨床研究へ向けての応用研究を行う準備を同時に進めている。その結果、現時点ではおおむね順調に進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
我々が注目したのは、グルコース輸送体(GLUT)である。正常組織と比較して悪性神経膠腫ではGLUT1, GLUT3の発現が高く、更に予後不良因子であることが報告されており、GLUT標的とした治療が重要であることは自明である。GLUTはアミノ酸輸送体と並び現在研究開発が最も進んでいる癌標的輸送体である。共同研究にて糖結合ホウ素薬剤の開発をスタートし、糖としてグルコースとグルコサミンを選択した。これらの糖へ様々な抗がん剤(paclitaxel, adriamycin)を結合させ、GLUTを標的とした薬剤の報告があり、既に、薬剤合成並びに評価法が確立されている。グルコースとグルコサミンに対して、これまでのBNCT臨床研究で使用実績のあるホウ素薬剤BSHを結合させたグルコース-BSHとグルコサミン-BSHを作成した。1.合成手法の確立、NMR,MSによる物性評価(物質特許取得へ):研究協力者と薬剤合成の確認とMS,NMR 等による純度,異性体等の物性の評価し、本薬剤の合成手法の確認と大量合成へ向けての取り組みを行っていく。2.腫瘍細胞・正常細胞での薬剤取り込みの毒性評価,:ヒト悪性神経膠腫U87MG, T98G, U251MG、マウス正常グリアを使用、細胞内ホウ素濃度測定をICP-MS(誘導結合プラズマ診療分析法)にて行う。同時に、GLUT高発現の代表的な悪性腫瘍である膵癌細胞にも注目し、膵がん細胞での取り込み能についても同時に確認する。3. 薬剤の細胞内分布評価と取り込み機序の確認(GLUT経路):悪性脳腫瘍細胞、膵がん細胞株を用いて、取り込みと同時にGLUT阻害薬投与による阻害効果の検討を行う。GLUT阻害薬としてWZB117(C20H13FO6、分子量368.31)を使用し、細胞障害性の無い濃度での取り込み阻害効果をICPを用いて細胞内ホウ素濃度の定量評価にて検証する。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により下記実験の遅延が生じたため、研究費残額が発生しており、今年度において追加実験を行う。 ・腫瘍微小環境(低グルコース環境)での薬剤取り込み評価 薬剤への特異抗体による免疫組織染色、GLUT阻害剤による細胞内導入評価、細胞培養液グルコース変更による細胞内ホウ素測定。複数薬剤による評価 ・ 中性子照射による抗腫瘍効果の検証 (京都大学複合原子力科学研究所) ・ 脳腫瘍モデルマウス、担癌モデルマウスを用いた単剤・複数薬剤による薬物動態(腫瘍、各臓器)、PK /PD実験, 臓器ホウ素濃度を測定
|