2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K09177
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
小川 大輔 香川大学, 医学部附属病院, 助教 (70524057)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 希少糖 / D-allose / 膠芽腫 / 脳腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経膠腫は原発性脳腫瘍の約25%を占め、手術による完全切除が不可能である。膠芽腫の標準治療であるテモゾロマイド(TMZ)を投与しても、平均生存期間は14か月であり、早急な追加療法の開発が望まれている。 自然界に多量に存在する単糖は、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)などが知られており、通常は細胞構成成分やエネルギーとなる。これに対し、自然界に微量しか存在しない単糖を希少糖と総称しており、キシリトールなどが日本では認知されている。希少糖は現在50種類以上が確認されているものの、自然界においてほとんど存在しないことから、単糖のバイオロジーは、グルコース以外研究されていない、未知の領域であり、希少糖の生物学的機能や存在意義については、ほとんどわかっていない。その理由として、これまで研究に耐えうる量の人工合成が不可能であり、非常に高価であったことにある。香川大学では、1991年に果糖を希少糖に変換させる酵素の発見をきっかけに、その後の研究により、これまで大量生産が困難であったアルロース、アロースといった希少糖を当大学で量産化に成功した。いまでは香川大学国際希少糖研究教育機構により、世界でも希少糖に関する研究をリードしている。これまでに当大学からの報告では、頭頚部癌、肺癌、肝癌、膵癌、大腸癌、泌尿器癌、皮膚癌、卵巣癌、などの他癌腫において、希少糖の中のD-alloseに関する抗腫瘍効果が多数報告されている。このように、希少糖に関する研究の経験はあるものの、これまで脳腫瘍との関係は研究してこなかった。 そこで本研究計画では、D-alloseあるいはその他の希少糖に、膠芽腫に対する抗腫瘍効果があるのか?あるならば、そのメカニズムを解明し、臨床応用できるのか?について研究し、膠芽腫に対する新規治療法の開発を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画における成果は以下のとおりである。膠芽腫に対する希少糖の抗腫瘍効果をin vitroにおいて評価する。・腫瘍の増殖を抑制する希少糖候補の絞り込み。希少糖の中でも特に抗腫瘍効果が他癌腫において報告されているD-alloseを中心に、複数の希少糖について、グリオーマ細胞株に対する抗腫瘍効果について検討した。グリオーマ細胞株(U251MGなど)に異なる単糖を添加して培養したところ、Ct(培地のみ)群や、その他の単糖類と比較して、D-alloseを添加した群において、有意に細胞の増殖抑制を認めた。このことから、他癌腫と同様に、膠芽腫においてもD-alloseの抗腫瘍効果が期待される結果であった。さらに異なるグリオーマ細胞株、濃度や培養日数などの条件検討を行い、最適な条件を検討した。・希少糖のグリオーマ細胞株への抗腫瘍効果の確認。選定された希少糖の、グリオーマ細胞株に対する増殖能・遊走能・アポトーシスなどの影響について調べた。これらの結果をまとめ、今後の研究計画に活かしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、D-alloseをはじめとする希少糖に、膠芽腫に対する抗腫瘍効果があるのか同定すること、であるが、それ以上に、そのメカニズムについて、糖代謝が関連しているのか、あるいは、糖代謝とは全く独立して、遺伝子発現に変化をもたらすドライバー分子として働いているのか、といったエネルギー代謝と関連しない、希少糖そのものの生物学的存在意義について明らかにする一端を担うことである。希少糖による生物学的効果といえば、グルコースと競合的に本来の解糖系を阻害することで、細胞をエネルギー不足に陥らせるメカニズムが想像しやすい。しかし、これまでの当大学からの研究成果報告によれば、D-alloseを投与することにより、CDKN2Bなどのcell cycleに関わる因子の発現上昇がみられるなど、D-glucoseと独立した、エネルギー代謝だけではない、遺伝子発現の変化に関わっており、遺伝子のレスポンシブル・エレメントによる生物学的影響が抗腫瘍効果を発揮することが示唆されている。また、当大学においては、理論上あらゆる希少糖を作成可能で、他施設では簡単に入手できない希少糖を扱うことができる。このように、当大学は希少糖に関連する研究において世界をリードしておりエネルギー代謝にこだわらない希少糖利用価値を探るなどの創造性を持って本研究計画を推し進めていくことで、希少糖を用いた膠芽腫の新規治療戦略の基盤を創出することが可能である。その結果、膠芽腫患者の予後の改善に寄与することが十分期待される。
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