2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K09212
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 和毅 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60235322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鳥居 暁子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (40594536)
宮本 健史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70383768)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脂肪由来間葉系幹細胞株 / 血小板 / 腱付着部炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、脂肪由来間葉系幹細胞株から作成した血小板(ASCL血小板)の腱付着部炎に対する抗炎症作用と組織再生能を検証することです。脂肪由来間葉系幹細胞株ASCL (human adipose-derived mesenchymal stromal/stem cell line )は本学で研究開発された皮下脂肪組織の脂肪前駆細胞から培養された間葉系幹細胞/間質細胞株です。長期間の拡大培養後にも染色体異常を認めないなど安全性も高く、さらに均一な性質で凍結・融解が可能など多くの利点を有します。このASCLから大量生産可能なASCL血小板は、近年、難治性腱付着部炎に対して行われているPRP(多血小板血漿)療法の種々の問題点を解決し、PRPの代替えとなるポテンシャルを有します。 近年、欧米や本邦の一部の医療施設において、難治性腱付着部炎に対しPRPを用いた治療が行われています。PRP療法は濃縮血小板に含まれるα顆粒内の様々な成長因子・生体活性物質を局所に高濃度に供給することで、変性組織の再生や損傷組織の早期修復を図る治療法です。既に腱付着部炎対しての有用性が報告されていますが、現時点ではその作用機序等は明らかでないのが実状です。PRPは自己血由来であり、抽出過程での遠心分離回数や速度・時間による血小板濃縮率の違い、白血球含有の有無、活性化の有無などによって作製されるPRPの性質が均一ではありません。したがって一定の治療プロトコルがなく、PRPの性質が均一ではないことがPRP治療に関するエビデンス、科学的根拠が低い一因と考えられます。 われわれはASCL血小板を用いその効果を確認するだけでなく、その効果を科学的に検証することを目的としております。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
われわれはまず、ASCL血小板の抗炎症効果と組織再生能を評価するために、既報に倣い2つの動物実験モデルを作成しました。抗炎症効果を検証するためには一定の炎症を惹起する必要があるため、腱損傷がminor traumaによって引き起こされることから、ratアキレス腱を切離するモデルを採用しました。また組織再生能を評価するためには腱の変性を再現する必要があり、collagenaseによるアキレス腱変性モデルを採用しました。それぞれのモデルに対しASCL血小板を投与し、抗炎症効果、腱修復効果について検証しております。 アキレス腱切離モデル10週齢のwister ratの右脚をsham側とし、paratenonのみの切開、左脚をincision側とし、アキレス腱を付着部で切断しております。incision側に対してASCL血小板投与群と(コントロールとしての)PBS投与群を作成し、real-time-PCRにて炎症性サイトカインの発現量について比較検証しました。投与3日後の時点でASCL血小板群で有意にIL-6、IL-1βの値が減少していることが確認されました。アキレス腱切断による急性炎症がASCL血小板投与により沈静化されており、ASCL血小板の抗炎症効果が証明されました。 アキレス腱collagenaseモデルでは、8週齢のwister ratの両脚にcollagenaseを投与して腱の炎症を惹起、十分に変性が進んだ2週後に右脚に(コントロールとして)PBSを投与、左脚にASCL血小板を投与しています。投与後1,2週での最大破断荷重試験では有意差は得られませんでしたが、投与後4週ではASCL血小板投与群で有意に最大破断強度が強くなっていることを確認しています。 以上のように、ASCL血小板の抗炎症効果、組織再性能を証明する結果が揃いつつあります。
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Strategy for Future Research Activity |
抗炎症効果、組織再性能ともにさらなる結果を積み上げていく予定です。 抗炎症効果については、現時点ではreal-time-PCRによってIL-6、IL-1βの減少が確認されています。今後は他の炎症性サイトカイン(TNF-αなど)の検証を行います。加えて組織学的検討として、免疫染色による炎症細胞の浸潤等の評価も行います。またin vivoによる検討だけでなく、raw cell264.7(マクロファージ様細胞)に対しLPS(Lipopolysaccharide)を投与し炎症を惹起、その炎症に対するASCL血小板の効果を確認します。ASCL血小板の前駆細胞であるASC、ASCLを使用した前実験ではreal-time-PCRで有意にIL-6に減少を確認できました。ASCL血小板でも同等あるいはそれ以上の効果が期待できると考えます。 組織再性能の関しては投与後4週で最大破断強度が強くなることが確認できましたが、その後8週、12週での強度についても検証します。物理的な強度だけでなく、組織学的評価とreal-time-PCRも行います。組織学的評価では免疫染色にてcollagen-1,collagen-3の発現量を比較します。正常腱ではcollagen-1の割合が大きくなります。またBonar scoreを使用し半定量的なスコアリングを行います。real-time-PCRでは、collagen-1,collagen-3,SCX,TNCなどの腱修復に関するサイトカイン発現量について比較します。 これらの結果が揃い、ASCL血小板の効果が証明された後には至適投与濃度や投与プロトコールの制定に向けた研究に進みます。
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Causes of Carryover |
少額端数です。
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