2021 Fiscal Year Research-status Report
脊柱靱帯骨化症に対する新しい骨化抑制療法に向けたエピジェネティクス解析
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21K09276
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
彌山 峰史 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (60362042)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 幹士 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (30467386)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 後縦靱帯骨化症 / 黄色靱帯骨化症 / 内軟骨性骨化 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
脊柱靱帯骨化症(後縦靭帯骨化症: OPLL、黄色靭帯骨化症: OLF)は重篤な脊髄症状を生じる疾患であるが、本症に対する治療は神経症状への対症療法や外科的骨化切除術に限られており、疾患の発生、進行を抑制する根治的な治療法は未だ確立されていない。基礎研究によって脊柱靭帯骨化症に関する新しい知見を得ることは、今後の新しい治療法の開発に極めて有用と考えられる。 全ての脊柱靭帯骨化の病理組織像において、骨化巣に近接して骨化前線が存在しており、骨化前線における細胞分化機構は本症の疾患形成の本幹の1つと考えられる。これまでの我々の研究において、OPLL/OLFでは骨化前線部においてRunx signaling、Wnt signaling、Indian hedgehog signalingなどの軟骨細胞分化、骨芽細胞分化を誘導・促進するシグナルのmRNA発現が亢進し、さらに外的負荷を加えるとこれらの発現量は有意に上昇することを明らかにできた(Spine, Arthritis Res Ther)。また、これらのmRNAの発現を抑制的に制御すると考えられるmicroRNAについて網羅的解析を行った結果、OPLLに特異的なmicroRNAとしてhsa-miR-483b-3p/down regulationの存在、およびその標的因子の骨化前線における発現と局在について報告することができた(J Orthop Sci)。 脊柱靭帯骨化症の病態に関与する全身性因子として、遺伝的背景が深く関与することが報告されているが、これに対して加齢性の退行性変化、代謝性疾患、生活環境因子など、多くのエピジェネティクス因子の関与が指摘されている。肥満、糖尿病、喫煙、ホルモンバランスの変化などはOPLL/OLFの病態に関与する因子であり、これらのことから本症の発症には多因子素因が複雑に混在することが推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
エピジェネティクスは、環境刺激により変化した遺伝情報の活性状態を記録、伝達、維持するための染色体領域の構造適応として定義され、DNAの1次構造に影響を与えずに遺伝子発現を変化させるものであり、さまざまな環境要因により後天的に引き起こされる。広義のエピジェネティクス修飾にはDNAメチル化、ヒストン修飾、microRNAによる遺伝子発現制御が含まれ、発生、細胞死、細胞増殖など様々な生物学的プロセスに関与しており、組織・細胞特異性と時空特異性を有することが大きな特徴である。近年の研究においてがん、代謝性疾患、神経疾患、免疫疾患など様々な後天的疾患にエピジェネティクス修飾が関与することが明らかとなり、新しい治療標的として非常に注目されている領域である。 上記のヒストン修飾に関連し、連続型OPLL、分節型OPLL、頚椎症性脊髄症(CSM; 比較対照)の各群から代表的な4症例の靱帯組織由来培養細胞に対してproteomicsを行った。実験方法はiTRAQによるタンパク質定量解析、LC-MS/MS解析によるタンパク質同定であり、その結果、発現した有効蛋白数は4353種であった。Cut lineをabundance ratio>1.5とすると、CSM群に対して連続群では2種(Histone H2B type WT、Histone-lysine N-methyltransferase)、分節群に対する連続群では7種(Histone-lysine N-methyltransferase、Histone H2B subtype、Histone H2A subtype)のヒストン修飾に関連するタンパク質が抽出できた。今後、これらのタンパク質発現がもたらす意味、役割について観察するとともに、microRNA解析の結果からみた標的因子との関連性を検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
DNA構造の変化を伴わずに遺伝子発現を変化させるエピジェネティクス修飾は多くの疾患形成に密接に関連するとされるが、脊柱靭帯骨化に関連したエピジェネティクス制御機構についての知見は国内外において非常に限られている。広義のエピジェネティクスであるmicroRNAに関しては、我々の報告を含めて4-5種類のOPLLに特異的なmicroRNAの発現が報告されているが、DNAメチル化やヒストン修飾についての報告は存在しない。DNAメチル化はエピジェネティクスの中心的存在であり、発生、分化、加齢といった広範な生命現象に関連し、細胞・組織特異性を規定する作用があり、またヒストン修飾は遺伝子発現の調節やアポトーシス等に影響することが指摘されている。本研究はこれまで解明されなかった脊柱靭帯骨化の“個体差”や脊柱靭帯に限局するという“局在性”に対する新たなアプローチであり、エピジェネティクス制御を標的とした新しい骨化抑制療法の開発に寄与するだけでなく、骨増殖性疾患である変形性関節症や骨粗鬆症に代表される骨代謝性疾患といった他領域に対しても、骨芽細胞分化の制御機構の解析という点で有用な知見をもたらしうる可能性がある。 DNAメチル化については、抗メチル化シトシン抗体を使用し、ゲノムDNA中のメチル化CpG領域を濃縮、次世代シーケンサーでシーケンス解析を行ったのち、検出されたピーク位置からメチル化DNA領域を検出する、という実験方法を予定している。予備実験として行ったanti 5-hydroxy-methylated-cytosin (5-hmC)の骨化組織に対する免疫組織化学染色の結果、骨化前線部の細胞に5-hmCの強い発現を認めた。今後は、骨化靭帯由来の培養細胞を用いてさらなる実験を予定しており、エピゲネティクス修飾についての知見を広げていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度の研究では免疫染色に関連する試薬、細胞培養に関わる試薬など、消耗品を中心に科研費と使用しました。また、コロナ感染拡大にともなう移動制限により、旅費の使用はありませんでした。次年度は次世代シークエンス解析などを計画しており、研究使用額が大きくなることが予想されますので、次年度使用額を併せて費用とする予定です。
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Research Products
(6 results)