2021 Fiscal Year Research-status Report
免疫回避の阻害と自然免疫活性化を併用した、新しい骨肉腫肺転移治療法の開発
Project/Area Number |
21K09325
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 嘉寛 九州大学, 医学研究院, 准教授 (10346794)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 腫瘍免疫 / 悪性骨軟部腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の腫瘍免疫療法の進歩により、進行がんの治療成績は改善しつつある。特に、手術、薬物、放射線治療に加え、腫瘍免疫療法が第4の治療法として脚光を浴びている。肺がんや胃がんなど、免疫療法が著効するがん種もあるが、免疫療法の悪性骨軟部腫瘍に対する有効性は、一般的に乏しいことが、いくつかの臨床試験で示されている。このことから、悪性骨軟部腫瘍においては、何らかの免疫回避機構、すなわち腫瘍細胞が、自身の免疫系を改変(免疫編集)し、生体の免疫システムから逸脱させ転移を成立させている可能性がある。
免疫系は、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞が中心となる自然免疫系と、ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞(Cytotoxic T cell: CTL)などリンパ球が中心となる獲得免疫系に大別される。腫瘍細胞の増殖初期には自然免疫系が働き、NK細胞やマクロファージによる抗原非特異的反応による腫瘍排除、いわゆる免疫監視が生じる。さらに樹状細胞は腫瘍細胞を取り込み、ヘルパーT細胞、CTLを活性化し自然免疫系と獲得免疫系の橋渡しをすることも知られている。悪性骨軟部腫瘍の予後を規定する最大の因子は肺転移である。本年度は,悪性軟部腫瘍が原発巣から肺転移を来す際に、腫瘍の免疫プロファイルがどのように変化するかを、特に自然免疫系と獲得免疫系の両面より明らかにした。このことは、悪性軟部腫瘍の肺転移に対する腫瘍免疫療法の確立、ひいては予後の改善に重要であると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は下記の結果を既に得ており、課題はおおむね順調に進展していると考えられた。悪性軟部腫瘍(Soft tissue sarcoma: STS)の原発巣と肺転移巣の免疫プロファイルの違いに関する報告はほとんどないため.本年度は,STS症例の原発巣と肺転移巣の腫瘍浸潤リンパ球を評価し,その特徴や臨床成績との相関を解析した.
当施設で肺転移巣の切除を行われたSTS患者43例(平滑筋肉腫12例,未分化多型肉腫9例,滑膜肉腫6例,悪性末梢神経鞘種4例,脂肪肉腫4例,孤立性線維性腫瘍3例,粘液線維肉腫3例,胞巣状軟部肉腫2例)を対象とした.原発巣の生検または外科的切除標本および肺転移巣の外科的切除標本を用いて,CD4,CD8,FoxP3,CD20,CD56,CD68,CD163,PD-1,PD-L1に対する免疫組織化学的染色を行った.評価は,異なる5視野(400倍)での陽性細胞数を合計する事で行った.低浸潤群と高浸潤群で,overall survival (OS)の比較検討も行った.
原発巣ではCD8陽性細胞が多く(32.4 vs 22.6, p=0.02),肺転移巣ではFoxP3(23.4 vs 14.3, p=0.002),CD68(32.6 vs 22.4, p=0.02),CD163(20.5 vs 13.0, p=0.02),PD-L1(19.4 vs 15.0, p=0.02)陽性細胞が多かった.Pleomorphic sarcomaとTranslocation-associated sarcomaの比較では,CD8陽性細胞のみ前者で有意に多かった(30.6 vs 20.8, p=0.03).OSの中央値の比較では,いずれの分子でも低浸潤群と高浸潤群の間で有意な差はなかった.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果から、STSの原発巣ではCD8陽性T細胞の浸潤が多く,肺転移巣ではマクロファージの浸潤に加え,制御性T細胞やPD-L1発現細胞といった抑制細胞が多いという特徴が明らかとなった.よって、次年度には,肺転移巣浸潤マクロファージの表現型など各免疫細胞の更なる詳細な分析を行い,STSに対する効果的な免疫療法の開発を進めていく予定である.
また、代表的な悪性骨腫瘍である、骨肉腫に関しても研究を行う。CH3系統マウスに発生する骨肉腫細胞であるLM8を用いて分子細胞生物学的な解析を行う。LM8をCH3マウス脛骨に移植、腫瘍形成後に切除すると約2-3週で肺転移がほぼ100%出現する(肺転移モデル)。このモデルを用いた我々の先行研究において、自然免疫の賦活化により肺転移が抑制されるが、その際、NK細胞の関与が乏しいこと、即ちLM8が転移を生じる際に何らかの免疫編集が生じ、その結果、自然免疫からの回避が生じていることを示唆する所見を得ている。そこで、この肺転移モデルから、腫瘍細胞を採取し、転移の過程で腫瘍細胞にどのような免疫編集が生じているかを包括的に検討する。
|
Causes of Carryover |
効率よく研究を遂行したために次年度使用額が生じた。次年度の物品費などに適切に使用を予定している。
|
Research Products
(5 results)