2022 Fiscal Year Research-status Report
Treatment research by the suppression of secretory phenomenon associated with cellular senescence in mouse prostate cancer model
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21K09409
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
井手 久満 獨協医科大学, 医学部, 教授 (00301383)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 前立腺癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢とともに体内に蓄積した老化細胞は、さまざまな炎症性蛋白質を高発現して周囲に分泌する細胞老化随伴分泌現象(Senescence-associated secretory phenotype:SASP)を引き起こす。老化細胞では、DNAメチル化酵素やヒストンメチル化酵素の発現低下によってエピジェネティックな遺伝子発現抑制機構が破綻し、SASP遺伝子の発現が誘導される。UTX(ubiquitously transcribed tetratricopeptide repeat, X chromosome)はヒト悪性腫瘍で変異を認めることが報告されている。本研究では、新規前立腺癌発症モデルであるDNA脱メチル化酵素UTXを前立腺特異的にノックアウトしたマウスを検証し、SASPが前立腺癌細胞の悪性化に関与しているのかを検討した。細胞老化とは、強いDNA損傷を被った細胞で生体防御機構として作動する不可逆的細胞増殖停止状態である。しかし、細胞老化を起こしても細胞の代謝自体は活発であり、長く生存し続ける場合がある。そのような老化細胞から多くの分泌タンパク質が産生される現象が発見され、SASPと呼ばれている。老化細胞ではエピジェネティックな遺伝子発現抑制機構が破綻し、さまざまなSASP遺伝子の発現が誘導される。老化マーカーとして老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SA β-Gal)を用いて免疫組織化学染色的に評価したところ、発癌に伴いSA β-Gal陽性細胞の増加がみられた。これらの研究結果から、Utx欠失マウスにおいて、SASPを介した癌の進展機構が推察される。また、炎症性サイトカインであるIL-1、IL-6、IFN-beta、ケモカインであるCXCL10、IL8、細胞外マトリックス分解酵素であるMMP1、増殖因子であるGMCSF、PDGFなどがあるが、これらの発現を同マウスの前立腺組織を用いて免疫組織化学染色、Western blotting法にて評価したところ、それらのいくつかに発現上昇がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前立腺特異的なUtx欠失マウスを作製し、前立腺でUtxを欠失したオスマウス(UtxΔ, Uty+)では、脂肪食によるストレスから前立腺癌の発癌がみられた。前立腺がんは8~9週後に発生し、前立腺癌の悪性度はGleason grade 3~4であった。また、p53KOマウスとの掛け合わせにおいて、より発癌が促進されているため、本モデルは前立腺癌のモデルとして今後の解析に有用である。
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Strategy for Future Research Activity |
SASP因子は、生体においては組織修復などの生理作用に関係する一方で、組織微小環境では癌の進展などのさまざまな不利益な病態を引き起こすこともわかってきたが、高齢者の罹患が多い前立腺癌ではほとんど解析されていない。また、これまで、高率にヒト前立腺癌にて変異がみられるヒストン修飾因子を標的とした前立腺癌モデルはない。前立腺癌は、加齢とともに発症率が上昇するところから、DNAメチル化やヒストンの化学修飾変化など、いわゆるエピジェネティックな調節機構の異常が関与している。今後は本動物モデルでのSASPの抑制による前立腺癌の増殖や浸潤、悪性化を抑制する新規治療戦略の確立を目指す研究が課題となる。
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Causes of Carryover |
前立腺特異的なUtx欠失マウスを作製し、前立腺でUtxを欠失したオスマウス(UtxΔ, Uty+)では、脂肪食によるストレスから前立腺癌の発癌がみられた。前立腺がんは8~9週後に発生する。本マウスの解析のためには、前立腺癌組織を得るまでに時間を要している。検体標本の作製が終了し、次年度に免疫組織学的検討を遂行するため、次年度の使用額を繰り越しした。
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