2021 Fiscal Year Research-status Report
人工合成糖脂質で惹起される抗腫瘍免疫機序の解明と新規製剤の開発
Project/Area Number |
21K09410
|
Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
宮崎 淳 国際医療福祉大学, 医学部, 主任教授 (10550246)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西山 博之 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20324642)
神鳥 周也 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50707825)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ビーシージー / 脂質免疫 / 癌免疫 / リポソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫チェックポイント阻害療法(ICI)を始めとする既存の癌免疫療法の大部分はMHC分子によって提示されるペプチド抗原を標的とし、その分子生物学的機序の解明も進んでいる。一方でICIと同じく、最も臨床的有用性の確立した膀胱癌に対するMycoabcterium bovis bacillus Calmette-Guerin(BCG)膀胱内注入(膀注)療法の免疫学的機序については、ほとんど解明されていない。 我々は、BCG細胞壁成分の1つである、ミコール酸(MA)をリポソーム化することで、MAに抗腫瘍効果があることを発見し特許申請中である(【発明名称】リポソーム、抗癌剤及び癌治療用キット【出願番号】特願2017-042228【国際公開番号】WO2018164116)。また、Bangor大学のBaird化学教授と、MAの各サブクラスならびにシス型トランス型も含めて、MAを2つトレハロースでつなげた合成TDM(trehalose-6 6’-dimycolate)リポソームの開発に成功している。α、メトキシ、ケトだけではなくシス型トランス型立体異性体にまで追求しリポソーム化して抗腫瘍活性を検証した報告は過去にない。また、TDMリポソームがBCG生菌に匹敵する強力な抗腫瘍効果を持つことを見いだした(Cancer Immunol Immunother. 2021)。さらに、自己組織化という新規技術を用いて、治療応用可能な純度100%のTDMリポソームの合成を行うことをも目標としている。 合成TDMを用いることやTDMの自己組織化で、従来の分離精製法と異なり、構成成分であるミコール酸(MA)のサブクラスやTDMの立体構造を任意に設定することが可能になる。本研究では最大の効果を発現するTDMを作成するとともに抗腫瘍免疫機序を詳細に検討し、脂質癌免疫のメカニズムを解明する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
天然物からTDM、MAを抽出、人工的にリポソーム化する技術は当研究室では確立している。さらに、共同研究者のBaird教授から、単一MAからなる完全人工合成TDMを供与いただけているため、それぞれからリポソーム化TDMを作成し、それぞれのMAの組成の差が抗腫瘍活性にどのように影響するか検討してきている。人工合成TDMにおいても同様に人工的にリポソーム化できることを確認済みである。これらの結果から、英国において、人工合成TDMについて特許申請準備中である。本研究ではさらに自己組織化TDMリポソームの作成に産業技術総合研究所と共同研究し作成に着手している。また、本研究では各種syngeneic マウス腫瘍モデルを使用するが、これらのモデル系は当教室で確立している。N-butyl-N- (4-hydroxybutyl) nitrosamine (BBN)発癌ではBBNを一定期間食餌させることで膀胱発癌を誘発するモデルが確立されており、食餌12週目以降より上皮内癌が誘発されることを確認している。このBBN発癌マウスモデルに、TDMリポソームを腹腔内投与することで、抗腫瘍効果が得られそうであるという知見を得た。このマウスモデルにおいて、膀胱組織からRNAを抽出し、RNAシークエンス解析を行い、抗腫瘍効果が発揮されるメカニズムの解明への手がかりとなるよう現在解析中である。 以前の報告で、NK細胞ノックアウトマウスモデルでは抗腫瘍効果が消失することが判明している。そのため、まずNK細胞の純培養も開始した。ほぼ純粋なNK細胞の培養方法も確立することができている。今後NK細胞がどのように抗腫瘍効果に関与しているか検討する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
腫瘍とリポソーム製剤を混和あるいは腫瘍接種部位に製剤を注射し抗腫瘍効果を検証してきた。しかし実臨床において腫瘍局所に製剤を投与することができる場面は限定的であり、実臨床への応用は難しい。現在、BCGコンノート株から抽出したTDMでは腹腔内投与モデルでも抗腫瘍効果が期待できる結果が得られている。これは、TDMにより全身的な免疫誘導が起こることを示唆できる所見であり、実臨床への応用も可能と考えられる。今後実臨床に沿った投与モデル、例えば腫瘍細胞を尾静注した転移性モデルやBBNにより膀胱発癌させたorthotopicのモデルで人工合成TDMリポソーム製剤の抗腫瘍効果をより繰り返し検証し、データを確実にしていく。現在は膀胱癌細胞株であるMB49膀胱癌細胞株を用いているが、膀注以外の投与法で有効な製剤が得られるとすると標的癌腫は膀胱癌に留まらない。そのため、他癌腫への抗腫瘍効果も検証する必要がある。本研究では膀胱癌細胞株に加え、免疫原性の高いMC38大腸癌細胞株および免疫原性の低いB16F10 melanoma細胞株を用いてTDMリポソームの抗腫瘍効果を明らかにする。 BCGの抗腫瘍効果にはNK細胞を中心とした自然免疫とCD8陽性T細胞を中心とした獲得免疫の双方が関与していると考えられている。我々はBCGコンノート株から抽出したTDMの抗腫瘍効果はCD8 depletionマウスで消失するデータを得ており、TDMの抗腫瘍効果にはCD8陽性T細胞を介した獲得免疫が重要であると考えられる。さらに、TDMはMincleがレセプターであることが明らかにされており、TDMの抗腫瘍効果もMincleノックアウトマウスで消失することを明らかとしている。Mincleは、マクロファージ、NK細胞といった自然免疫細胞に広く分布しているため、メカニズム解明には網羅的な解析が必要になる。
|
Causes of Carryover |
Covid19の影響で、研究進捗についての会議、学会等がWEB対応となり、旅費を使用しなかったため
|