2021 Fiscal Year Research-status Report
HMGB1の血管内皮障害作用に着目した妊娠高血圧腎症の病態の解明と新規治療薬探索
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21K09442
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永松 健 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (60463858)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 妊娠高血圧症候群 / HMGB1 / トロンボモジュリン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、代表的なDanger signal因子であるHigh-mobility group box 1 (HMGB1)の作用に着目して、妊娠高血圧腎症(PE)に生じる母体の全身臓器と胎盤の血管内皮障害に対するHMGB1の関与の解明を目指し、HMGB1拮抗薬剤による新規のPE治療法探索を目的として検討を進めた。 マウスにおけるPE発症の方法として、皮下埋め込みポンプ利用してアンギオテンシンII (AngII)を持続放出するPEマウスモデルを用いて、HMGB1の胎盤内の蛋白量、末梢血中の濃度について検討を行ったところ、PEマウスモデルでは末梢血中のHMGB1の濃度が上昇している一方で胎盤内のHMGB1の量が減少していた。また組織学的検討においてPEマウスモデルでは、胎盤のlabyrinth layerの菲薄化とjunctional zoneの出血壊死の組織変化が生じており、この組織障害がHMGB1の胎盤からの放出の背景に存在することが明らかになった。末梢血中ではHMGB1の上昇と同時にPEの血清マーカーであるsFlt-1および末梢血中の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)の濃度上昇が確認された。これらの結果よりアンギオテンシンIIの投与に伴う子宮-胎盤血管への負荷により絨毛細胞から放出されるHMGB1が炎症性サイトカインや血管機能障害分子の誘導を介してPE発症の重要なトリガーとなっていることが示唆された。さらに、HMGB1を拮抗する作用のある薬剤による治療効果の検討として、トロンボモジュリン(TM)による投与効果を検証した。TMはHMGB1と結合して受容体への結合を阻害する分子機能が知られている。AngII誘発性PEマウスモデルにおいてTMの投与がPE症状の軽減と同時に胎盤組織障害の軽減効果および末梢血中のHMGB1濃度の低下に寄与することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はPEマウスモデルを用いたHMGB1とPE発症機序との関係性について検討を進め、胎盤から放出されたHMGB1が炎症性サイトカインを誘導して慢性炎症のトリガーとして働いていること、そして、HMGB1は絨毛細胞からのsFlt-1の産生を増加して、それが母体の全身的な機能障害を引き起こしていることが確認された。こうした結果は従来からPEの病態背景として指摘されてきた慢性炎症や血管機能障害などに関して、それらに共通する上流側の要因としてHMGB1が存在していることを示唆する結果であった。そのため、HMGB1による負の影響を拮抗するアプローチが治療戦略として有望であると考えられた。そして、その候補薬剤としてトロンボモジュリンの投与をマウスモデルに行いPE症状の改善を認めており、動物実験における課題が順調に進行している。今後、妊娠女性においても同様の機序が関与していることを検証する必要があるため、PEを発症した妊娠女性の末梢血や分娩時の胎盤検体の収集を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
マウスモデルにおいてHMGB1に対する拮抗的作用を有するTMの投与によりPEの症状改善が確認されたことを踏まえて、今後はさらにTMの投与量に伴う効果の変化および、PE発症に対する予防的効果の視点からも検討を進める。また、TM以外にもHMGB1の中和抗体、HMGB1受容体特異的なアプタマーなど他の候補薬剤についても検証する。 動物実験で得た知見を臨床応用することを目指して、マウスモデルで確認されたことと同じ現象がPEを発症した妊婦でも起こっているのかについて調べる。今年度収集を開始した臨床検体を用いて、末梢血中のHMGB1と炎症性サイトカインおよび血管新生関連因子との相関を調べる。さらに胎盤検体を利用して組織局所からのHMGB1の放出状態や絨毛細胞におけるHMGB1の細胞内分布について検討する。さらに、ヒト絨毛細胞株を用いたin-vitroでの解析も進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、マウスモデルを用いた検証を中心に進めたが、先行して行っていた予備実験の内容にほぼ沿った形で研究が進捗したため当初予定されていた費用よりも少ない実験試薬、器材での実行が可能となった。また、治療法の開発の課題については、今年度は既存薬剤であるトロンボモジュリンを用いた検討を先行して実施したが、次年度は、治療候補薬剤の開発や精製に要する費用について研究費使用が大きく増えることが予定されている。また、今年度に収集した臨床検体についての解析を次年度にまとめて予定しておりそのための費用も必要となるため、それらを考慮して次年度への持越しとした。
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Research Products
(6 results)