2021 Fiscal Year Research-status Report
音響性聴器障害モデルにおける内耳シナプスの易障害性のメカニズムを探る
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21K09582
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
寺岡 正人 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (40444749)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 音響性聴器障害 / 内耳シナプス / 易障害性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで有毛細胞死やらせん神経節ニューロンの消失が難聴の主な原因であり、騒音下での語音明瞭度低下の主因であると推定されていたが、近年難聴の病態として「cochlear synaptopathy」という新しい概念が注目されている。本研究では、異なる易障害性をもつ2種類の音響性聴器障害動物モデルを用いて、内耳における易障害性の差異を生理学的検査で証明するとともに、そのメカニズムを分子生物学的、病理組織学的に解明することを目的とする。騒音性難聴モデルはさまざまな研究で用いられているが、騒音の曝露量や曝露時間によって異なる障害がみられることが分かっている。 2021年度は主に騒音環境の整備と聴力評価を中心に行った。具体的には意識下のラットに騒音暴露室で110デシベルSPL、中心の周波数4キロヘルツのブロードバンドノイズの音響暴露を24時間加える。ノイズはサウンドジェネレーターを用いて防音ボックスに設置したスピーカーを介して入力する。実験動物は音響暴露中に拘束は行わず飲水も自由とする。防音ボックス内の音場測定を行い、それぞれの場所での変動は3dB以内とする。聴力閾値の測定はプロトコールに準じ、麻酔(ケタラール腹腔内投与)下でのABRを測定する。針電極を頭頂部、耳介後部と大腿部皮下に挿入し、マイクロホンを介してトーンバースト刺激を与え、10デシベルステップで音圧を変化させ閾値を測定する。ABR閾値は3.5、7、14、28キロヘルツの各周波数で求める。今後は騒音の曝露量および曝露時間を異なる程度で負荷し、難聴程度の差異をさらに明らかにする。また、同時に病理組織学的評価の検討をすすめ、メカニズムの解明に向けてさらなる研究を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
所属研究室では、内耳の研究・診療の豊富な実績を有しており、虚血性内耳障害モデルを基に多くの論文を報告している。とくに実験動物のABR機器を用いた聴力評価については問題なく行うことができる。しかしながら音響性聴器障害モデルについては経験がなく、騒音環境の整備や実験動物の管理等の問題で安定した実験データを得られていない。騒音曝露室の環境を整備し、安定したモデルを作成するのに時間を要している。 本研究ではさまざまな炎症パラメーターで一貫して非常に高くランク付けされており、自己免疫疾患に対する高い感受性を有するDark Agouti種(DAラット)および、脳脊髄炎の誘導に比較的抵抗性を示すとされ、炎症も軽度であるPiebald Virol Glaxo種 (PVGラット)を実験動物として用いる予定である。しかしながら、実験動物の入手が困難となったため、用いる実験動物の見直しの検討が必要である。 これらの環境が整えば、研究目的に沿う予備実験データはすでに得られており、スムーズに研究を進めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において解明すべき項目は、①音響暴露による内耳障害がラット種によって異なるか、もし障害性が異なるのであれば、②障害性の差異を分子生物学的、病理学的に証明できるか、さらに③これらの変化が「cochlear synaptopathy」に対しどのように関連するかである。もし、これらの実験動物が音響暴露に対し異なる障害性を示すのであれば、そのメカニズムを解明することで、新たな難聴の治療や予防につながる可能性がある。 具体的には2021年度から継続して騒音環境の整備と聴力評価を行う。まず、前年度で課題となった騒音曝露環境の見直しが必要であり、騒音の曝露量、曝露時間やノイズの種類を調整して負荷し、安定した障害モデルの作成を目指す。また、実験動物の見直しが必要であり、移植免疫の実験で用いられているBrown Norway種(BNラット)やWKAH種(WKAHラット)などが候補として挙げられる。本研究の目的は内耳の易障害性を明らかにすることであり、実験動物については遺伝子改変モデルや老化モデルを用いることも検討している。 安定した音響性聴覚障害モデルの作成ができれば、ABRを用いて聴覚障害の程度を経時的に評価することで、易障害性をより明らかにすることができる。さらに今年度は病理組織学的評価も加える。実態顕微鏡下にコルチ器を採取し、得られた標本をrhodamine-phalloidinにて染色を行い、UVフィルターを用いて蛍光顕微鏡下に有毛細胞を観察する。さらに免疫染色にて有毛細胞と蝸牛神経のシナプスを詳細に観察することで、メカニズムのさらなる解明を目指す。
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Causes of Carryover |
前年度に購入予定であった無響箱をはじめとした音響暴露システムの条件設定や価格調整にズレが生じたため、購入に至らなかった。ABR検査機器については、所属研究室ですでに稼働していた装置を使用したため、前年度は実験動物の購入が主たる費用であった。次年度は条件を調整の上、音響箱や騒音曝露システムを購入する予定である。
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