2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K09603
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
榎本 孝幸 東京工業大学, オープンファシリティセンター, 技術職員 (70635680)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 疾患モデル / 糖尿病 / 神経発生 / 動物行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
嗅覚は危険回避や食物探索、繁殖行動など生存に重要な役割を担っている。ヒトにおいても、嗅覚からの情報によってパートナーの選択や食物の風味の感じ方が左右され、交通事故や疾病の罹患によって嗅覚機能が損なわれるとクオリティ・オブ・ライフの著しい低下を招く。嗅覚障害は、主に匂いを感じるための細胞やその情報処理をする神経回路が障害されることによって引き起こされ、近年急増している糖尿病患者でも併発するが、その発症メカニズムはよく分かっていないことが多い。本研究では、糖尿病モデルマウスを用いて糖尿病の発症や進行、治療が嗅覚システムの形成や機能に与える影響を明らかにし、嗅覚障害の発症メカニズムの解明を目指している。 本研究計画では、まず新規に作製した自然発症型糖尿病モデルマウスにおける嗅覚システムの形成や、嗅覚機能を調べる予定にしていたが、これらの実験に必要となるマウスを自然交配によって確保することが難しいため、当初の計画を変更し、体外受精によるマウス個体の作出および、コントロールとなる薬剤誘導型糖尿病モデルマウスの作製に着手した。新規糖尿病モデルマウスは高効率な体外受精方法を用いたとしても受精率が低いマウス系統であったが、体外受精を複数回に渡って実施し、本研究で必要な量の受精卵を作製、凍結保存することに成功した。現在、偽妊娠マウスに作製した受精卵を移植し、マウス個体が得られるかどうかを確認している。また薬剤誘導型糖尿病モデルマウスの作製については、糖尿病を誘導する薬剤であるストレプトゾシンの投与量を最適化し、高血糖値を示す糖尿病マウスを安定して得られる条件を設定した。令和4年度より、これらの糖尿病モデルマウスについて解析を実施出来るところまで到達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画で必要となる新規糖尿病マウスを自然交配によって得る予定であったが、交配の組み合わせや週齢を検討しても妊娠マウスを得ることがほとんど出来なかった。このため、実験に用いるマウスを確保するための計画を大幅に変更せざるおえない状況となった。 新規糖尿病マウスを得るためには体外受精を行わなければならないが、学内共通施設で体外受精によるマウス個体の作出実績があり、本研究で必要な量の受精卵を凍結保存することが出来た。実験対象となるマウスの確保に時間を要し、実験が計画通りに進まなかったため、現在までの進捗状況としては遅れているが、自然交配が困難である表現型自体が特定の嗅覚異常の可能性を示唆しており、新たな知見が得られることも考えられる。令和3年度で必要なマウス作出に十分量の凍結受精卵を確保し、令和4年度以降に新たな知見を考慮した上で研究を推進することが出来るため、総合的に判断して(3)やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の方策としては、以下の3つのように実験を実施することで、初年度で遅れている計画を推進させる。 ①令和3年度に凍結保存した受精卵から新規糖尿病マウス個体を作出し、嗅覚システムの組織や嗅覚機能を調べる。当初予定の自然交配によるマウス個体作出を変更し、体外受精による個体作出を行う。既に十分量の凍結受精卵を確保しているが、安定してマウス個体が得られるかどうか確証がまだない。そのため、現在保有している新規糖尿病オスマウスからも精子を採取して凍結保存し、凍結精子からの体外受精も行えるようにする。 ②所属機関に新たに整備される共通のマウス行動実験装置を用いて、作出した新規糖尿病マウスの行動解析を行う。新たに整備される行動実験装置は専用解析ソフトまで一式を導入予定となっており、実験に用いるマウスさえ得ることが出来れば、そのマウスの行動を定量的に短時間で解析することが可能になる。自らで解析するより時間的・金銭的コストが抑えられるため、先に行動実験条件の最適化等の予備検討を行い、共通設備が整えばそれらを利用してデータを取得する。もし計上していた予算が余れば、追加で必要となった体外受精のための試薬購入費に充当する。 ③作出した新規糖尿病マウスの細胞治療および薬物治療を行い、嗅覚システムや嗅覚機能を調べる。この実験計画は元々最終年度(令和5年度)に実施予定であったが、既に細胞治療と薬物治療が可能であることを確認しており、上記2つの実験でマウス個体に余剰が出れば並行して進めることを考えている。
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Causes of Carryover |
[次年度使用が生じた理由] 令和3年度に購入予定であった設備備品デジタルビデオカメラについては、次年度に大学の共通設備として行動実験装置群(購入予定のデジタルビデオカメラも含む)が整備される予定となったため、当該研究予算で購入せず次年度以降に大学の共通設備を利用して必要な実験を行うこととした。またその他消耗品費として申請していた費用の繰越しについては、当初予定していた遺伝子改変マウスの自然交配が困難であることが判明し、初年度は体外受精による受精卵作製および、凍結保存を行い、この操作に必要な試薬類を学内で利用した試薬の残りや再利用によって実施したため。 [使用計画] 当研究計画に使用する遺伝子改変マウスの繁殖に体外受精による個体作出が必要となったため、令和4年度以降の体外受精によるマウス作出費用に充当する。
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