2021 Fiscal Year Research-status Report
CCT2複合ヘテロ変異による網膜変性モデルマウスの病態と網羅的タンパク質定量解析
Project/Area Number |
21K09689
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Research Institution | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
Principal Investigator |
岡本 晶子 (須賀) 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 分子細胞生物学研究部, 研究員 (70450400)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
峯岸 ゆり子 公益財団法人がん研究会, がんプレシジョン医療研究センター プロテオミクス解析グループ, 研究員 (20621832)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 遺伝性網膜疾患 / 動物モデル / ゲノム編集 / 分子シャペロン / プロテオーム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は早期の網膜変性の原因となるシャペロン分子の変異をもつモデルマウスを作製し、病態解析、発症機序の解明を目指すものである。 レーベル黒内障患者から同定された複合ヘテロ変異と同一のアミノ酸置換を持つモデルマウスの作製を目標に、それぞれのアミノ酸置換を持つノックインマウスライン(RH, TP)の交配を進め、RHホモ、TP/RH複合ヘテロの表現型を得た。RHホモマウスは生後4週齢から視細胞変性が始まり、8週齢までにほとんどの視細胞が消失していた。一方でTP/RHマウスは発生途中の網膜で細胞の配列が乱れており、視細胞外節も萎縮していた。TP/TPマウスは産仔に含まれず、胎生致死と考えられた。 RHホモマウスと野生型マウスの網膜組織について質量分析により発現量が減少したタンパク質115種類、増加したタンパク質137種類を同定した。Gene Ontology解析により、CCTタンパク質複合体自身とBBSタンパク質群の減少が示された。量的変化が大きかったタンパク質についてマウス網膜組織のウェスタンブロッティングと免疫組織染色を行い、タンパク質発現量と局在の変化を確認した。この中にはCCTの既知の基質と、基質としては報告のない分子が含まれていた。 これまでの結果から、複合ヘテロ変異を構成するそれぞれのアミノ酸置換の有害度は個体レベルで大きく異なることが示された。また、CCT2変異による網膜変性の発生機序としてこれまでに知られていない分子の関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の中で新規知見を得るのに重要な実験である、変異マウスと野生型マウスの網膜タンパク質量の網羅的比較が順調に進み、量的変化が見られるタンパク質を多数同定することができた。減少したタンパク質群の中には既知のCCT2基質分子が含まれており、妥当な結果が得られていると考えられる。増加・減少量の大きいタンパク質についてはウエスタンブロッティングと免疫組織染色を行った結果、ラベルフリー定量分析と矛盾しない結果が得られている。タンパク質量・局在の変化が複数の方法で確認されたタンパク質についてはCCTの基質候補と考えられるため、検討実験を準備中である。 病態解析、網膜組織の分子生物学的解析において、2ラインのノックインマウスそれぞれのホモと複合ヘテロマウスを作出する過程で多数のメイティングが必要と予想されたが、統計的な差を検討できる十分な数を確保できた。またその過程でTPホモマウスは異なる親の組み合わせによる複数回の出産で産仔が得られず、胎生致死であることが統計的に支持された。 本変異はレーベル黒内障患者から同定されたにもかかわらず、患者と同じ変異を持つマウスは生後14日で致死になることが確認できた。マウスで表現型がより重篤になる原因は明らかではないが、繊毛に局在するタンパク質の減少や局在変化が見られていることから、マウスでは繊毛病の全身的な影響が強く表れている可能性が考えられる。この点については動物種間の差異と考えられるが、患者にも全身的な症状が見られないか確認を依頼している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究で、CCT2変異マウスの表現型について生後10週齢(2カ月半)までの網膜層構造の変化を網膜断層像によって経時的に観察し、変異ホモマウスでは生後1カ月から網膜視細胞の変性が始まることを確認した。またこの期間の網膜組織切片を作製し、視細胞が優先的に減少することを確認した。今年度はより長期間の表現型を確認する事、また視機能への影響を確認するためにマウスの網膜電図をCCT2変異マウスと野生型の間で比較する。 CCT2はTRiC/CCTシャペロニンを構成する分子の1つである。CCT2変異マウス網膜と野生型マウス網膜との網羅的タンパク質量比較で得られた結果から、量的変化の大きかったタンパク質がCCTの基質になるかどうかの検討を行う。具体的には、in vitroでのCCT2と標的タンパク質の免疫沈降実験を行い2つの分子が結合するかどうかを検討する。さらに網膜の免疫組織染色でCCT2と標的分子が共局在するかどうかを確認する。特異性の高い抗体が入手できれば組織での免疫沈降実験も検討する。 これまでの研究で、CCTの補助因子であるPhLPを視細胞特異的にノックアウトすると光シグナル伝達に重要な分子の量が変化することが報告されている。しかし昨年度の結果では光シグナル伝達関連分子よりも繊毛関連分子の量的変化が大きいことが示唆されており、どちらがより早い時点で視細胞変性の発端となるのかを検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナの流行により、国内学会が延期もしくはリモート開催となったため旅費・宿泊費に余剰が生じた。また組織の解剖用に予定していた卓上実態顕微鏡の納期が昨年度後半から目途が立たず、来年度購入に変更した。顕微鏡(15万円程度)については現在問い合わせ中である。その他の余剰分は来年度研究費と併せて網膜組織への影響を確認するために電子顕微鏡観察の受託費用に充てる。本実験はコントロール・変異体それぞれ3個体からの検体を確認すると770000円の費用が見込まれる。
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