2022 Fiscal Year Research-status Report
歯周病の妊娠への悪影響と妊娠による歯周病の悪化に関連する因子の解明
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21K09881
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
鈴木 麻美 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (60318540)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 妊娠関連歯肉炎 / 口腔内細菌 / 歯間乳頭 / 歯周ポケット / シークエンス / データーシェアリング / 遺伝子発現 / 自然言語処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
妊娠中の約8割の患者さんでブラッシング時に歯肉から出血するとの回答があった。主に出血する部位は、歯の叢生が見られる歯間乳頭からであり、妊娠中期から後期にかけて、その頻度は増加していた。また、プロービング時の出血量は、通常と比較して多く、歯肉の炎症を伴う仮性ポケット形成が認められた。このように、ブラッシングし難い部位において歯肉炎発症の頻度が高くなることから、ポケット内の細菌叢の変化が妊娠関連歯肉炎の重要な因子の1つになると考えられる。また、それらの変化は、妊娠によって起こる宿主側の身体の変化も大きな影響を受けていると考えられる。 妊娠関連歯肉炎と一般的な歯肉炎との違いについては、まだ、不明な部分が多く、歯肉炎の悪化による母体や胎児への悪影響を考えると、妊娠関連歯肉炎の発症メカニズムの解明が必要である。 本研究では、歯肉に炎症が認められた妊娠中の患者において、炎症が無い部位と歯肉炎の部位それぞれから、ペーパーポイントを用い、歯周ポケット内から細菌の抽出を行った。DNA抽出後、16SrRNA V2,3,4,6,7,8,9領域の配列をシークエンサーにより読み取り、それぞれのポケット内に存在する細菌の種類、数および構成比の比較を行い、妊娠関連歯肉炎の原因菌の特定につなげる。さらに、妊婦の遺伝子発現解析から、妊娠中に口腔内に影響を及ぼす変化を明らかにする。 まずは、既存のデータを公共データベースより収集し、遺伝子発現解析を行い、さらに、PubMedなどを用いた文献の自然言語処理による情報をバイオインフォマティクスの手法を用いて集約し、妊娠関連歯肉炎に関連する遺伝子発現やホルモン変化について検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染の流行により、歯科受診数はかなり減少してきていた。日本歯科大学附属病院マタニティ歯科外来も例外ではない。新型コロナが流行する前と比較すると10分の1程度まで受診数は減少した。令和5年5月8日から、新型コロナが感染症分類2類から5類になることが公表されてから、来院数は少しずつ増加してきているが、流行前と比較すると5分の1程度までの回復となっている。そのため、歯周ポケットからの細菌の収集の数は予定をかなり下回っている。さらに、遺伝子発現解析のための検体の採取は、共同研究施設での制限からほとんど行えていない状態である。遺伝子発現については、既存のデータベースからデータを抽出して解析する方法を用い進めている。さらに、過去の研究論文など文献から、妊娠関連歯肉炎の関連情報を自然言語処理の方法を用い解析を進めている。 今後、新型コロナが感染症分類で5類に位置づけされることにより、妊婦の受診の増加が予測される。それによって、研究協力を求め研究を進めることが出来ると考えている。 妊婦における歯肉炎の部位では、炎症の無い部位と比較して、Fusobacterium nucleatum、Lautropia mirabilisやNeisseria cinereaの増加が認められ、Neisseria sicca、Streptococcus oralisやRothia dentocariosaで減少が認められた。 データシェアリングによる遺伝子解析からは、妊娠によりbeta-estradiol、estrogen、ERBB2、PPARAやTGFB1などの変化が細菌叢の変化に影響を及ぼしていることが推測された。
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Strategy for Future Research Activity |
妊娠関連歯肉炎と妊婦・胎児への双方向の影響については、疫学研究が行われてきたが、細菌学、および、分子生物学レベルでの研究は、十分な科学的根拠に至るものではない。本研究では、妊娠関連歯肉炎と妊娠への影響について、疫学的な関連解析を行うだけでなく、妊娠中と出産後での口腔内環境および歯周組織の状態を比較し、妊娠関連歯肉炎の発症・進行と妊婦や胎児への影響、妊娠中の母体の変化による歯周組織への影響の双方向での関連を疫学、口腔内細菌の変化、および、分子生物学レベルで解析を進める。 まず、日本歯科大学附属病院マタニティ歯科外来に来院した患者の協力を得て、サンプル数を増やし、個体差を考慮した上で、妊娠関連歯肉炎に関連する細菌 の種類・比率について引き続き解析を進める。来年度は、昨年度出産し、出産後1年経過した患者から歯肉溝もしくは歯周ポケットからサンプリングを行い、妊娠中と出産後の変化についても調査を開始する。それに加えて、既存の歯周病に関する生命科学データのシェアリングより、妊娠による血中に認められるタンパク質や遺伝子発現情報を再解析し、妊娠による分子レベルでの変化をバイオロジカルプロセスとパスウェイ情報を収集することにより、炎症部位で、どのような分子レベルでの反応が起こっているかについての解明につなげる。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、令和3年度と同様に、新型コロナの感染拡大により、日本歯科大学附属病院マタニティ歯科外来への妊婦の受診は、感染流行前と比較して大きく落ち込んでおり、患者からの研究協力を得ることが非常に難しい状態だった。また、日本歯科大学共同研究施設使用制限により、炎症部位における遺伝子発現解析を行うことが難しい状態だった。これらのことから、謝金やその他の経費の次年度使用が生じた。 令和5年度を迎え、新型コロナの感染症分類の5類への移行発表から、徐々に妊婦の歯科受診が回復してきている。今後は、当外来に受診した患者からの研究協力数を増やし、歯肉溝および歯周ポケットから抽出した細菌の解析数を増やすことが出来ると考えられる。また、炎症部位の治療時に採取した検体からの遺伝子発現解析についても、共同研究施設の使用が可能となり、令和5年度は解析を開始することが可能となり、令和3年度、4年度未使用の研究費を加え、研究を進めることができると考えられる。
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