2022 Fiscal Year Research-status Report
「高炭水化物食」誘導脂肪肝マウスを用いた歯周炎によるNAFLD増悪機序の解明
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21K09894
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
栗原 英見 広島大学, 医系科学研究科(歯), 名誉教授 (40161765)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高炭水化物食 / NAFLD / 歯周炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周炎が細菌感染・慢性炎症の場として存在することで、糖尿病やリウマチなどの他疾患を増悪させるというPeriodontal Medicineの概念が確立してきている。近年では、歯周炎が非アルコール性脂肪肝(Non-alcoholic fatty liver disease(NAFLD))の増悪因子となることが報告されている。しかし、その病因については不明な点が多い。その原因の一つとして、最適なマウス実験系が少ないことが挙げられる。 これまでのマウスを用いた基礎研究では、NAFLDを発症させるために「高脂肪食」を用いていた。しかしこの「高脂肪食」は、歯周炎によって影響を受ける糖尿病/肥満も併発する。さらにこれら糖尿病/肥満はNAFLDを増悪させるため、歯周炎とNAFLDの直接的な因果関係検証が困難であった。 そこで研究代表者は、「高炭水化物食」をマウスに与えることで肝臓代謝に負荷を与え、糖尿病/肥満を発症する前にNAFLDを単独発症させることに成功した。さらにこの「高炭水化物食」投与によるNAFLD発症マウスモデルに、絹糸結紮による歯周炎を惹起させたところ、NAFLDの症状を増悪させた。すなわち、歯周炎は糖尿病/肥満などの他疾患を介することなく、肝臓代謝に直接的に影響することでNAFLDを増悪させることが示唆された。 現在、より詳細なメカニズム解析として、歯周炎によって促進する炎症性サイトカイン、もしくは歯周病原性細菌の他臓器移行のいずれがその病因を担っているかを検証中である。より詳細には、歯周炎によって全身性のIL-6産生が向上していたが、このIL-6によるNAFLDへの関与は弱いようであった。一方、歯周炎発症によって、肝臓中から口腔細菌が検出できたとことから、この口腔から移行した細菌がその病因を担っている可能性を見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した通り、マウスを用いた基礎研究において、肝臓の脂肪変性・線維化を特徴とするNAFDの誘導には「高脂肪食」が投与されていた。しかしこの「高脂肪食」誘導性NAFLDは糖尿病/肥満を併発する。実臨床の病態を反映しているものの、歯周炎とNAFLDの双方に影響を与える糖尿病/肥満が併発すると、歯周炎によるNAFLDへの直接的な影響を検証するのには適さない。 そこで研究初年度には、「高炭水化物食」を投与することで血糖値増加や体重増加を生じることなく、NAFLDを発症させることに成功した。さらに、この糖尿病/肥満未発症の「高炭水化物食」誘導性NAFLDマウスモデルに、絹糸結紮による歯周炎を惹起させたところ、肝臓の脂肪変性と炎症性線維化が促進した。すなわち、歯周炎とNAFLDの直接的な関係を検証可能なマウス実験モデルが樹立出来たといえる。 研究2年目には、この歯周炎によるNAFLDの増悪メカニズムについて、炎症性サイトカイン産生と口腔内細菌叢に焦点を絞り研究を進めた。まず、炎症性サイトカインについて、歯周炎を発症させることで全身をめぐる血清中IL-6発現が上昇することが認められた。そこでこのIL-6に対する中和抗体を投与することでNAFLD増悪を抑制できるか検証したところ、期待したほどの抑制効果は認められなかった。すなわち、歯周炎による全身性の炎症の増悪の関与は否定的であった。 一方、「高炭水化物食」誘導性NAFLDマウスに絹糸結紮歯周炎を発症させたところ、肝臓中から細菌が検出された。これは、歯周炎によって口腔内細菌が肝臓に移行し、肝臓代謝に何らかの影響を与えた可能性が高い。この知見を深く検証することで、歯周炎によるNALFD増悪メカニズムを示せるようになる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、「高炭水化物食」投与によって、糖尿病・肥満を発症する前にNALFDを発症する実験的マウスモデルの樹立に成功している。さらに歯周炎が糖尿病・肥満などを介することなく、直接的にNAFLDを増悪させることも示せた。また、そのメカニズムが歯周炎による全身性慢性炎症状態よりも、口腔内細菌の肝臓移行が原因である可能性も示唆している。 そこで今後は、この口腔内細菌の肝臓代謝への影響を検証していく。すでに研究代表者は、絹糸結紮歯周炎を発症させることで、肝臓中か細菌が検出されるようになることを見出している。そこで、この肝臓に移行している細菌全般と、口腔内細菌叢の相違についてマイクロバイオーム解析によって明らかにしていく。その中から、肝臓代謝に悪影響を与える細菌を決定する。その口腔細菌を分離培養後、肝細胞株HepG2に添加し、肝脂質代謝に与える影響を検証するためのin vitro実験を遂行する。特に、siRNAや過剰発現ベクターを利用したloss of function/gain of function実験によって、口腔細菌誘導性の肝脂質代謝異常に関わるKey分子を絞り込む。この知見について、再度in vivo実験に戻り、免疫染色やPCRによって、実際にそのKey遺伝子が歯周炎によるNALFD増悪に関与していることを明らかにする。
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