2022 Fiscal Year Research-status Report
骨膜におけるF-boxタンパク質FBXW2の骨誘導能に関する検証
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21K09947
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Research Institution | Osaka Dental University |
Principal Investigator |
秋山 真理 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (60340618)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | FBXW2 / FBXL14 / F-box protein / 弾性線維 / スキャフォールドフリー / 骨膜 / 骨膜由来細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来、骨再生プロセス解明のための研究で、F-Box and WD-40 Domain-Containing Protein 2 (FBXW2)が骨膜内の骨形成層において発現し、in vitroでは、骨膜由来細胞の初代培養の際にオステオカルシン発現との関連性を示すことを報告してきた。 当該年度においては、FBXW2と弾性線維との関連性を明らかにした。ウシ骨膜および血管の弾性線維をエラスチカワンギーソン染色にて観察し、FBXW2抗体を用いた免疫染色画像と比較した結果、弾性線維が存在している部位とFBXW2が発現している部位は類似していた。次に弾性線維の構成成分であるエラスチンの免疫染色を行い、二重免疫染色法にてFBXW2と比較した結果、エラスチンの発現部位はFBXW2の発現部位に近似しているものの、完全には一致しないことが分かった。これらの結果から、本研究で用いたエラスチンおよびFBXW2抗体は2つのタンパク質を異なるタンパク質として特異的に認識しており、FBXW2は弾性線維の構成成分であると断定は出来ないものの、弾性線維にassociateしているタンパク質であることが明らかになった。 研究課題に掲げたFBXW2以外にも骨膜由来細胞に関与するFボックスタンパク質がある。F-box/leucine-rich repeat protein 14 (FBXL14) である。初代培養時に、FBXW2がオリジナル組織である骨膜において発現しているのに対し、FBXL14は骨膜から派生した骨膜由来細胞において発現している。培養液の条件をアスコルビン酸添加、無添加の2条件に分け、骨膜由来細胞の免疫染色を行った結果、細胞が多層構造を示したアスコルビン酸添加条件において、FBXL14は膜状の構造体をつくり、細胞を支持していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
弾性線維の構成成分であるエラスチンは不溶性のタンパク質であることから電気泳動を使った手法では分析が困難であるが、免疫染色法によりエラスチンとFBXW2との関連性を初めて調べることができた。当初の計画では、FBXW2と骨再生との関連性を中心に調べる予定だったが、FBXW2と弾性線維との関連性を調べる研究に発展し、予期していなかった成果が得られた。骨膜の骨形成層および血管には弾性線維が存在している。しかしながら、弾性線維の石灰化のプロセスは組織によって異なる。骨膜の骨形成層に存在する弾性線維上には5週間の初代培養期間中にオステオカルシンの発現が認められたが、血管の弾性線維上のオステオカルシンの発現は今までの研究で認められなかった。オステオカルシンとは対照的にFBXW2は骨膜および血管の弾性線維近傍に発現している。骨膜由来の膜性骨化にFBXW2は関与している可能性があるが、血管においてはFBXW2が発現していてもオステオカルシンを伴う石灰化のプロセスは抑制される仕組みがあることが示唆された。 骨膜由来細胞はスキャフォールドフリーでの骨再生能がすでに報告されているが、細胞が多層構造を形成するためには人工のスキャフォールドに代わる細胞の支持組織あるいはタンパク質が必要である。従来の研究で、骨膜由来細胞を支持するための必要な成分は何か、つまり、天然のスキャフォールドになり得る物質は何かを探索してきた。膜状のFBXL14が形成された場合に、骨膜由来細胞は厚みのあるシート状の構造を形成することが本研究課題で明らかになった。FBXL14の役割の解明が今後、骨再生医療の応用へとつながると考えられる。 当該年度においては、以上の研究成果を2編の原著論文にまとめ、国際誌に印刷公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
FBXW2のsiRNAを用いて、遺伝子ノックダウンを試みたが、培養細胞と異なり、骨膜組織に始めから存在するFBXW2の発現を抑制することは困難であった。そこでターゲットタンパク質を、初代培養期間内に増加するFBXL14に変更し、骨再生過程におけるFBXL14の必要性を明らかにする方策に転換する。 弾性線維は骨再生における石灰化のみならず、全身の血管の石灰化にも関わる重要な細胞外マトリックスである。骨膜の弾性線維は石灰化するにもかかわらず、なぜ正常な血管では弾性線維が石灰化しないのか、その原因を明らかにすることは、血管の石灰化による動脈硬化の解明にもつながる。今後は骨膜を用いた研究と並行して、ウシの足から採取した血管のin vitroでの変化を免疫組織学的に観察する。 さらに現在進行中なのが骨膜組織および骨膜由来細胞の混合体から抽出したタンパク質の解析である。従来の研究では、培養上清中に含まれるタンパク質の解析を質量分析法にて行ってきたが、検出できるのは水溶性タンパク質に限られていた。今後は、超音波破砕機と二次元電気泳動用タンパク質抽出液との組合せにより、骨膜組織および骨膜由来細胞の混合体から質量分析法で検出するのに十分な量のタンパク質を採取し、さらに多くのタンパク質の相互作用を明らかにする方針である。 培養液に添加しているアスコルビン酸の影響を調べた実験では、アスコルビン酸無添加条件では、骨膜の中のFBXW2とオステオカルシンはファイバー状のエラスチンから離れていく傾向があった。今後の方策としては、エラスチンから離れることで、石灰化プロセスに関与するタンパク質の存在を明らかにすることを考えている。
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