2022 Fiscal Year Research-status Report
窒素固溶磁気遮蔽材料を用いたニッケルフリー磁性アタッチメントの開発
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21K09949
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高田 雄京 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (10206766)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 正敏 東北大学, 歯学研究科, 助教 (50400255)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 磁気回路 / 窒素 / 固溶 / オーステナイト / 磁気遮蔽 / 磁性アタッチメント / レーザー溶接 / γ相 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Niを全く含まない非磁性ステンレス鋼として窒素固溶によるγ相を応用し、部品点数と製造工程の低減化を実現したクラッド加工のない高耐食性の閉磁路型歯科用磁性アタッチメントを開発すること進めてきた。 昨年度までの研究では、温度と固溶時間の制御により、窒素固溶で得られる非磁性のγ相の厚さを制御でき、効率的な磁気回路が設計可能であることが明らかになった。さらにこのγ相は、非磁性を示すだけでなく、十分な引張強さと伸びを持ち、SUS XM27を上回る耐食性であった。 今年度は、γ相を用いたカップヨーク型磁性アタッチメントの試作を行い、製品化を前提とした吸着力や歩留まりなどを調べた。γ相の厚さを最適な磁気回路を形成するよう調整し、γ相の上部をレーザー溶接することで磁石構造体を製作した。直径3.5㎜の磁石構造体では、従来品と同等の吸着力を示したが、溶接後のビードにわずかなクラックを生じるものがあり、径を大きくすると歩留まりが低下する傾向を示した。そこで、製造過程における歩留まりの向上を目指し、γ相とα相の突合せ部に脱窒素を行ったα相を形成し、その部分を貼り代としたα相とγ相が共存した多層構造を持つ新しいシールドリングを考案した。 処理時間240分前後の範囲において、窒素固溶速度が毎時約100μmであるのに対し、真空で脱窒素した速度は毎分約10μmと非常に速く、脱窒素層の厚さを細かく制御することが難しいことがわかった。そこで窒素固溶処理と脱窒素処理を効率的に行うため、処理温度を1150℃に下げて窒素固溶及び脱窒素処理を行い、処理時間を調整することで磁気回路に最適な多層構造のディスクヨークの製作に成功した。このディスクヨークを溶接し磁石構造体を作成したところ、直径5㎜のものでもクラックの発生はなく、歩留まりの改善ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来利用されてきた非磁性ステンレス鋼に代わるγ相(磁気遮蔽材料)の製造及び評価と磁気回路への応用の可能性を明らかにするため実験を進めてきた。γ相(磁気遮蔽材料)の製法確立として、磁性ステンレス鋼(XM27:Fe-26Cr-1Mo)の丸棒(φ2~4mm)と板材(厚さ1mm)を所定の大きさに切断し、横型高真空電気炉を用いて1150℃で1~10時間窒素雰囲気中で加熱(窒素固溶処理)し、γ相の厚さと固溶時間から所定の厚さのγ相を形成する条件を確立した。さらに、γ相の材料学的特性(磁気特性、機械的性質、耐食性、溶接性など)の解析は、γ単相になった試料を用い、引張試験等の材料試験を行い、耐力、引張強さ、伸び、弾性率、硬さを求め、γ相の力学的評価を行った。また、γ単相試料の電気化学的特性をISO 13017に準拠して測定し、耐食性も評価した。 今年度は、磁性アタッチメントの試作を目指し、γ相を利用したニッケルを全く含まない磁石構造体の製作に挑戦した。周囲に非磁性のγ相を固溶させたディスクヨークを製作し、従来通りレーザー溶接で希土類磁石を密封した磁石構造体の試作に成功した。吸着力は従来品と同等であったが、歩留まりに問題が生じたため、脱窒素処理法を開発してα/γ多層構造のディスクヨークを製作し、大型の磁石構造体においても歩留まりを維持できる試作品を得ることができた。 次年度は、製品化に向けて磁石構造体の耐食性を評価し、安全性と耐久性に優れた磁石構造体の完成を試みる。予定した内容通りに研究が進行しているため、おおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までニッケルを全く含まない磁性アタッチメントを開発するため、窒素を固溶したγ相を磁気回路に応用することを検討してきた。おおむね順調に研究が進行しており、最終年度である今年度は、試作から製品化への検討を中心に行う。特に、γ相の厚さは熱処理時間により調整されるが、脱窒素によるα相(貼り代)との厚さの比率が磁気回路の特性を左右する。そこで、直径の異なる磁性アタッチメントを想定し、φ2~4.2㎜のXM27ステンレス鋼棒における熱処理時間と層厚に関係を明らかにし、実験式を求めることで、安定した性能の磁石構造体の量産を目指す。現在、φ2~4.2㎜における層厚をもとに直径と熱処理時間の実験式によって、生成するγ相の厚さを算出できるよう実験を進めている。 また実用化に重要な点は、安全性であり、磁性アタッチメントにおいては耐食性が最も重要である。金属の腐食にとって口腔内は非常に過酷であり、十分に耐食性を評価する必要がある。窒素固溶によるγ相自体は昨年報告したとおり、磁性アタッチメントに使われているSUsXM27よりも優れているが、窒素固溶の途上で反応を止めているため、γ相とα相の共存した状態で使用されることになる。さらに、レーザー溶接も付加されるため、α/γ相共存における耐食性も評価する課題である。 以上より、今年度はこれら2つの課題を明らかにし、製品化及び量産化できる磁石構造体を製作できる生産方法を確立する。
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Causes of Carryover |
昨年度より予定していた生物学的実験(動物実験)を外部委託する予定であったが、高額ななため、東北大学歯学研究科病理学分野に依頼することで大幅なコスト低減化を図ることができた。そのため、今年度の残額と次年度の研究費を合わせ、今年度末に破損した磁性アタッチメントの吸着力を評価する試験機の購入に充てることを計画した。引張試験機にISO 13017規格に準じたジグを装着した引張試験機であるが、価格高騰のため今年度の残額もぜひ必要な予算であり、次年度の研究遂行に不可欠である。
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Research Products
(7 results)