2022 Fiscal Year Research-status Report
EphA4活性化により生じる高分化型口腔癌メトロノーム化学療法耐性機構の解明
Project/Area Number |
21K10084
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
喜名 振一郎 群馬大学, 大学院医学系研究科, 講師 (40422422)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金城 貴夫 琉球大学, 医学部, 教授 (30284962)
喜名 美香 群馬大学, 医学部附属病院, 医員 (80578914)
宮本 昇 琉球大学, 病院, 助教 (80749565)
川端 麗香 群馬大学, 未来先端研究機構, 講師 (90721928)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | メトロノーム化学療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
メトロノーム化学療法は、低容量頻回投与のレジュメに基づいて行う。メトロノーム化学療法は多くの施設で行われているにもかかわらず、その耐性機構に関しては不明である。我々は、口腔扁平上皮癌に対して、bleomycin と S-1 を併用した術前メトロノーム化学療法のphase I/II 試験を行い、その化学療法感受性を病理組織学的に検討した。高分化型腫瘍では、抗癌剤感受性が低下していた。高分化型頭頸部扁平上皮癌と低中分化型頭頸部扁平上皮癌の抗癌剤感受性の違いを、TCGA (The Cancer Genome Atlas) を用いた解析により、その説明を試みた。受容体型チロシンキナーゼ EphA4 が高分化型において高発現していた。Upstream regulator analysis を行った結果、EphA4 が高発現している頭頚部扁平上皮癌組織では、mTOR 経路が不活性化し、T 細胞関連遺伝子も抑制されていることが明らかになった。EphA4 ブロッキングペプチド(KYL)を、高分化型口腔扁平上皮癌細胞に暴露したところ、mTOR の活性化を確認した。さらにTCGA を用いた解析から、高分化型腫瘍においては、低中分化型腫瘍と比較して形質細胞様樹状細胞や、CD8 T細胞の浸潤が少なくなっていた。これらのことから、高分化型腫瘍は、低中分化型腫瘍と比較してcold tumor (腫瘍微小環境において、免疫系が排除されている腫瘍)であることが判明した。さらに、KYLと抗癌剤を高分化型口腔扁平上皮癌細胞株に暴露したところ、相乗的に癌細胞が死滅することも観察した。以上のようなメカニズムでEphA4 は高分化型口腔扁平上皮癌のメトロノーム化学療法耐性に関与していることをEuropean Journal of Pharmacology 誌に報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題に関しては、昨年度に論文を作成し、European Journal of Pharmacology 誌に筆頭筆者として報告している(Kina S, Kawabata-Iwakawa R, Miyamoto S, Kato T, Kina-Tanada M, Arasaki A. EphA4 signaling is involved in the phenotype of well-differentiated oral squamous cell arcinoma with decreased tumor immunity. Eur J Pharmacol. 2023 Apr 15;945:175611. doi: 10.1016/j.ejphar.2023.175611. Epub 2023 Feb 18. PMID: 36804938.)。免疫組織染色を行うにあたって、EphA4 に対する利用可能な抗体を探索するのにかなりの時間を要した。しかしながら、適切な抗体を入手しえたため、頭頚部腫瘍におけるEphA4 の発現を免疫組織染色で確認した最初の報告となっている。IPA を用いたデータサイエンス、ヒト検体に対する免疫組織染色、実際の臨床データによる術前メトロノーム化学療法を行った際の口腔癌患者の生存率の改善データ、口腔癌細胞株を用いた生化学実験など、多方面の研究手法を駆使しえたことが、概ね順調な研究の進捗状況を達成できている背景にあると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究代表者の現所属機関においても、口腔扁平上皮癌患者の一部に対して、術前にS-1 を用いた術前化学療法を行っている。研究代表者の前所属機関とは異なる化学療法のレジュメを用いた場合においても、S-1単独での術前メトロノーム化学療法により、口腔癌患者の生存率が改善するか、あるいは、特定の患者集団においては何らかの予後の改善が認められるかなど、今後検討を加えていく予定である。さらに、腫瘍の組織学的分化度と、病的バリアント(pahogenic variants) との関連を現在検索している。EphA4 やEph ファミリーの発現に、高分化型腫瘍特異的なpathogenic variants が関与していないか、TCGA などのデータベースをもとに、解析を開始している。高分化型口腔扁平上皮癌特異的に生じているpathogenic variantsが誘導するシグナル伝達経路と、Eph ファミリーとの間に何らかの相互作用が生じていないかなども含めて、検討を加えていく予定である。また今回明らかとなった、高分化型口腔扁平上皮癌組織周囲に生じている免疫細胞の枯渇状態(cold tumor)と、高分化型腫瘍特異的な病的バリアントとの間に何らかの相関が生じていないかなど、本課題を通じて明らかになった事象をさらに深めて研究を展開していく予定である。本研究を通じて、口腔癌標準治療ガイドラインを凌駕するような、術前メトロノーム化学療法の有用性を提示し、生存期間ではなく、生存率の改善を達成できるような治療戦略を提唱することを目指していく。
|
Causes of Carryover |
当初予定していたマウスを使った効腫瘍効果確認のための実験を行う代わりに、ヒトデータベース(TCGA) や免疫組織染色などを優先的に行う方へ研究手法を変更したため、当初の予定と比較して研究費が現段階ではかかっていないことが原因と考えている。しかしながら、現在は、ヒトのデータを駆使することに重きをおいて研究を進めており、今後はヒト検体を使用してWES (Whole Exome sequencing) 解析などを予定している。今後、倫理審査委員会への申請などを経て、研究を遂行していく予定である。そのため当初の予算と同等の研究費が必要となると考えている。
|
Research Products
(2 results)