2021 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ照射液を用いた治療抵抗性口腔癌の革新的治療法の創出
Project/Area Number |
21K10128
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Research Institution | Plasma ChemiBio Laboratory |
Principal Investigator |
鈴木 真奈美 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所, 研究部, 研究員 (10842883)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 口腔癌 / 低温大気圧プラズマ / アポトーシス抵抗性 / ミトコンドリア / 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
低温大気圧空気プラズマ照射液(APAM)の口腔癌増殖に対する作用を調べた。WST-8アッセイの結果、APAM (12.5%~50%)は、使用した8種類の細胞株(放射線耐性ならびにシスプラチン耐性株を含む)の増殖を用量依存的に抑制した。APAMは細胞死も誘発した。APAMの効果は、ネクロトーシス阻害剤ネクロスタチン-1、オートファジー阻害剤3-メチルアデニン、クロロキンのいずれでも抑制されなかった。一方、濃度および細胞状態により、カスパーゼ阻害剤ZVAD-FMK、二価鉄キレータービピリジル、ならびにフェロトーシス阻害剤フェロスタチンー1によって抑制された。フローサイトメトリー解析で、細胞株によって有意なアネキシンV陽性細胞の増加が観察された。蛍光顕微鏡による高解像度生細胞イメージング解析の結果、APAMは短時間(2時間以内)に、低濃度では、ミトコンドリアの断片化を、高濃度では、ミトコンドリアの断片化、凝集と細胞核の著しい縮小、分解を誘発した。その結果、無刺激では核周囲に均一または対称的に分布したミトコンドリアが、APAM刺激後は核の片側の辺縁部に非対称性に集積した。さらに、その集積部位に活性酸素ならびに過酸化脂質が蓄積すること、およびこれらが細胞傷害に関与する結果を得た。これに対して、典型的フェロトーシス誘導剤エラスチンは、ミトコンドリアの形状、分布にほとんど影響を与えなかった。これらの結果から、APAMは、濃度、細胞状態、細胞株の種類によりアポトーシスまたは鉄依存性非アポトーシス細胞死を誘発すること、および後者は、典型的なフェロトーシスとは異なると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りにAPAM誘発細胞死の様態をほぼ同定することができた。 初年度の競争的資金の納入および海外からの物品の調達が遅れたために今年度予定していたGPX4遺伝子ノックダウン実験を実施できなかった。しかし、GPX4活性阻害による過酸化脂質の蓄積は、以前は、主要な経路と考えられていたが、最近では、GPX4に依らない経路でもフェロトーシスが誘発されることが示されている。また、APAMによる細胞死にはミトコンドリアの形態、細胞内分布の著しい変化が見られたことから、ミトコンドリアの関与が必要とされないことが示されているフェロトーシスとは異なるという知見を得たため、この解析は不要であると考えられる。予備的検討から、APAMによる細胞増殖抑制には活性酸素の関与が推定されていたが、このミトコンドリアの形態、細胞内分布の変化にミトコンドリア内活性酸素の増加が付随し、ミトコンドリアの核偏在化により過酸化脂質が核傷害部位に集積し、その傷害に関与することを明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
複数の口腔癌細胞株でin vitro レベルでのAPAM抗腫瘍効果を検討し、強い抗腫瘍効果と正常細胞株への影響が少ないことを確認したため、免疫不全マウス移植腫瘍モデルを用いてAPAMの口腔癌に対する抗腫瘍効果をin vivoで検討する。APAMは、濃度、細胞状態、細胞株の種類によって異なる様態の細胞死経路を活性化できるという知見を得た。特に、同一細胞株であっても実験間で鉄キレーターによる抑制効果にばらつきが見られること、ならびに過剰増殖細胞では感受性が低いことから、この相違が細胞内鉄量の変動によるものであることが考えられる。これを確かめるために、フェロジン法を用いて細胞内鉄量測定を行い、鉄依存性細胞死との関連を調べる。 近年、酸素分圧によらない細胞内低酸素環境(擬似低酸素)が報告されている。低酸素検出プローブMARでAPAM刺激後の細胞を染色すると、無刺激細胞と比較してMARシグナルが減弱することから、APAMが腫瘍の擬低酸素状態の解除を介して細胞死を誘導していることが予想される。このため塩化コバルトによる低酸素状態の誘導ならびに1%低酸素状態で培養した細胞株を用いて低酸素とAPAM誘発細胞死との関連性を検討する。 高解像度蛍光顕微鏡による観察で、断片化したミトコンドリアが傷害された細胞核の単極辺縁部に集積するという現象を見出した。核ラミナの抗体染色や核構成タンパク質の蛍光抗体染色やウエスタンブロッティング解析を行い、細胞核(構成タンパク質)がこの集積部位を中心に傷害されているかどうかを検討する。
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Research Products
(3 results)