2022 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ照射液を用いた治療抵抗性口腔癌の革新的治療法の創出
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21K10128
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Research Institution | Plasma ChemiBio Laboratory |
Principal Investigator |
鈴木 真奈美 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所, 研究部, 研究員 (10842883)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / フェロトーシス / 一酸化窒素 / 活性酸素 / 低温大気圧プラズマ照射液 |
Outline of Annual Research Achievements |
APAMは溶液中に亜硝酸イオン (NO2-),硝酸イオン (NO3-)を含んでおりこれらが還元されると一酸化窒素(NO)を生じる。この化学反応は低酸素状態の細胞内で進行することから、腫瘍細胞で起こりうることが予想された。実際に、予備検討においてNO 2-を細胞外から添加すると細胞内にNOが増加した。そこでNO がAPAM による細胞死のメディエーターとなるかどうか検討した。APAMによって細胞内NOが増加するかを細胞刺激後、NO特異的検出プローブDAR-4 AMを用いて調べた。その結果APAM刺激後2時間以内に細胞内にNOが顕著に増加した。この効果は濃度依存的で、細胞死誘導と相関した。前年度に、ミトコンドリアの断片化とその縮小した細胞核単極辺縁部への集積(MPMC)が細胞死に先行して誘導されることを報告している。NOも同様な局在を示し、核近傍に蓄積することが確認された。以上の結果から、APAM刺激によってミトコンドリアまたは小胞体のような細胞核に隣接する、運動性を持つオルガネラ内でNOが産生されることが示唆された。次に、これらのNO変化が細胞死に寄与するかをNO 消去剤CPTIOを用いて調べた。WST-8アッセイの結果、NO 消去剤CPTIOで1時間処理した細胞ではAPAMによる細胞増殖抑制作用が著しく抑制された。CPTIOはまた、APAM添加後に細胞死に先行して誘導されるミトコンドリアの断片化と細胞内分布変化を抑制した。さらに、NO供与剤NOR-3が高濃度では細胞内NOを増加させて、細胞傷害作用を示し、低濃度ではAPAMによる細胞傷害ならびに細胞増殖抑制作用を増強した。これらの結果は、APAM がNO依存性に細胞死を誘発し、NOがMPMCの調節に重要であることを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画で予定した、NO が細胞死ならびにそれに先行するミトコンドリアの形態変化に関与するかの検討に着手し、その結果、NOがこれらのメディエーターであることを明らかにできた。低温大気圧プラズマ照射液が亜硝酸イオン (NO2-),硝酸イオン (NO3-)を含むことはすでに多くのグループが報告している。一部のグループがH2O2とNO2-が相乗的にプラズマ照射液の抗腫瘍効果を増加させることを報告しているが、そのメカニズムはほとんどわかっていない。NO2-がプラズマ照射液添加後の細胞内におけるNO産生に関与するという結果は新しい発見である。さらに、NOがMPMC制御に重要であるという新しい知見を得ることができた。もうひとつの課題である免疫不全マウス移植腫瘍モデルを用いたin vivo実験においては、APAM添加後のがん組織が黒化し、壊死に類似した変化を起こすことを目視ならびに病理組織の解析から確認した。これらの結果はin vitroの解析結果と一致しており、APAMがネクローシス細胞死を強く誘導することを示す。一方、ネクロトーシスの関与は否定的であることから、他のネクローシス細胞死の関与が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)NO合成酵素結合型阻害剤 Amino-BH4 を用いて APAM による細胞死が NOS 依存性か内皮細胞型、神経型および誘導型それぞれの NOS 遺伝子の発現とノックダウンから関与する NOS を同定する。NOは化学的性質から細胞内では速やかに拡散すると考えられる。NOシグナルが限定された場所に観察されることから、NOをメディエーターとする細胞死に寄与する一連の化学反応が進行する場合、オルガネラのような場でNO産生が起こることが必要である。これを確かめるためにDAR4-AMとオルガネラ特異的な検出プローブとの共染色を実施し、APAM刺激によってNOを産生するオルガネラを同定する。また、前述したように同定したNOS経路をノックダウンし、MPMC発生率への影響を調べてNO生成経路を特定する。(2) 新規アジュバント剤の探索:予備検討から、サリノマイシンによる細胞傷害が、APAM同様にCPTIOで抑制されることを見出している。この結果から、サリノマイシンがAPAM細胞死経路と類似した作用機序を持つことが予想されたためAPAMとの併用効果を検討する。サリノマイシンはがん幹細胞への傷害性を持つことが報告されており、これらの併用はがん幹細胞を標的とした新しい抗がん治療法の開発につながることが期待できる。(3)鉄関連経路の検討:前年度報告したように、APAMは鉄依存性非アポトーシス細胞死を誘発すること、および典型的フェロトーシス誘導剤エラスチンとは異なる性質の細胞傷害を活性化することが明らかとなった。しかしAPAM刺激によってどのような性質の細胞傷害経路が活性化されるかは同一細胞株であっても細胞状態に応じてばらつきが見られた。特に鉄キレーターによる抑制効果は実験間での相違が強く見られた。この変動の要因は何であるか検討する。
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Research Products
(4 results)