2021 Fiscal Year Research-status Report
小児期のう蝕および口腔内環境に着目したピロリ菌定着の予防法追究に対する新戦略
Project/Area Number |
21K10184
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
野村 良太 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (90437385)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仲野 和彦 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (00379083)
鋸屋 侑布子 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40803078)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ヘリコバクター・ピロリ菌 / nested PCR法 / 智歯 / 口腔検体 / 口腔細菌叢 / 消化器疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘリコバクター・ピロリ菌は、消化器疾患の原因細菌として知られており、乳幼児期に口腔を介して感染すると考えられている。これまでに、口腔サンプルからピロリ菌を特異的に検出することのできる遺伝子解析法を構築して、小児の口腔内にピロリ菌が定着していることを明らかにした。一方、小児が成長を完了する10代後半から20代前半における口腔内の特徴として智歯の萌出が挙げられ、位置的な特徴から智歯周囲では感染が生じやすいことが知られている。そこで本研究では、智歯がピロリ菌の定着の場として関与する可能性があると考え分析を行うことにした。 智歯の抜歯を希望された142名の患者を対象として、唾液および抜去歯をご提供いただき、智歯からはデンタルプラークと歯髄を採取して分析に使用した。唾液、デンタルプラーク、歯髄のそれぞれから細菌DNAを抽出し、nested PCR法を用いてピロリ菌の検出を試みた。99名の被験者から抜歯した智歯は完全萌出もしくは半萌出の状態であり、28名(28.2%)においていずれかの口腔サンプルからピロリ菌が検出された。また、これらの被験者の各口腔サンプルについては、唾液で9名(9.1%)、デンタルプラークで12名(12.1%)、歯髄で12名(12.1%)がピロリ菌陽性であった。一方、完全埋伏した智歯を抜歯した43名の被験者においては、ピロリ菌が12名(27.9%)で検出された。各口腔サンプルにおいては、唾液で4名(9.3%)、デンタルプラークで6名(14.0%)、歯髄で5名(11.6%)がピロリ菌に陽性反応を示した。さらに、完全埋伏歯を2本抜歯した被験者で、1歯がピロリ菌陽性でもう1歯が陰性であったものについて、抜去歯周囲における口腔細菌種の網羅的解析を行なった結果、ピロリ菌陽性検体では陰性検体と比較してBacteroidetes門の細菌の占める割合が多く、Firmicutes門の細菌の占める割合が少ないことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ピロリ菌が智歯から検出されたことにより、乳幼児期に口腔内に感染したピロリ菌は、成長期以降も口腔内に新たな感染の場を見つけて定着している可能性があることを示すことができた。一方で、ピロリ菌の定着に関連する口腔細菌叢の網羅的解析を進めているものの、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で外部委託の企業との連携が取りにくくなっていたため、口腔細菌叢に着目した研究の進行についてはやや遅れている。また、研究代表者の異動に伴い、研究環境を新たに整備する必要性が生じたことも研究に遅れが生じた一因である。
|
Strategy for Future Research Activity |
ピロリ菌陽性の口腔サンプルと陰性の口腔サンプルとの間で、口腔細菌叢の分布が異なる傾向が認められたことから、特定の口腔細菌種がピロリ菌の定着に関わる可能性が考えられた。そこで、多数の口腔サンプルを用いて口腔細菌叢の網羅的解析を行い、ピロリ菌定着に関わる口腔細菌種の特定を試みる予定としている。また、これまでの研究では、10代後半から20代前半の被験者を対象としてきたが、小児患者も対象に加えたいと考えている。さらに、ピロリ菌の定着メカニズムの解明を目的とした基礎研究として、口腔由来の培養細胞を用いたピロリ菌の感染実験も計画している。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で外部委託の企業との連携が取りにくくなっていたことと、研究代表者の異動により研究環境を新たに整備する必要性が生じたことが、次年度使用額が生じた原因となっている。現段階で、外部委託の企業と当初予定していた遺伝子解析を再開している。また、研究代表者が新たな研究環境で実験を行う準備が整ってきているため、次年度末には当初のスケジュール進行に戻して研究を遂行できるものと推測している。
|