2021 Fiscal Year Research-status Report
細菌-真菌複合バイオフィルムの病原性と母子感染の解明
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21K10196
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
伊藤 龍朗 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (60635126)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 複合バイオフィルム / C. albicans / S. mutans / 早期小児齲蝕 / 母子感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
早期小児齲蝕(Early Childhood Caries: ECC)はバイオフィルム(B.F.)感染症の一つであり、 臨床の場で頻繁に遭遇する。ECC患児の口腔B.F.(歯垢)からはS. mutansと共にCandida albicansが高頻度で検出されており、C. albicans保有患児のECCオッズ比は5倍以上とされ、さらには母子感染の可能性も報告されている。またS. mutans-C. albicans複合B.F.モデルでは、S. mutans単一の場合と比較して、齲蝕病原遺伝子の発現上昇、菌体外多糖(EPS)と菌量の増加、実験動物へのより重篤な齲蝕誘発がみられる。したがって、ECCへの取り組みはB.F.研究の視点が必須となる。 齲蝕原性B.F.研究は実験室株の単一菌で得た成果が多い。しかし単一菌からなるB.F.環境は存在せず、また実験室株では本来の病原因子を欠落している可能性がある。一方、C. albicansとECCの関連を調査した疫学研究は「(1)患者情報の統計解析」と「(2)微生物プロフ ァイルの取得」にとどまっており、B.F.の観点でECCとC. albicansの母子感染を解析した例は ほとんどない。そこで、細菌と真菌が共存した複合B.F.を一単位とし、口腔からの分離株を 用いて検討する必要があると考えた。本研究では、ECC患児とその母親の試料からS. mutans-C. albicans複合B.F.を構築し、「B.F. の齲蝕関連因子と構造」という観点で、その病原性とC. albicansの母子感染を明らかにしていく。 令和3年度では、3歳以上の小児とその母親を対象に、生活背景(食習慣、養育環境、真菌感染に関わる 既往歴・服薬歴)を聴取し、母子のdmf(DMF)歯(面)数を記録した。次いで、齲蝕を有する者(Caries群)と齲蝕のない者(Caries Free: CF群)の母子からプラークを採取し、C. albicansとS. mutansの生菌数を算出した。同時に臨床分離株を作成し、C. albicansの遺伝子型と母子感染の有無を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度では、(1)ECCの背景情報と試料の採取、(2)試料の微生物プロファイル取得と臨床分離株の作製を予定しており、(1)(2)共に実施することができた。Caries群(子)ではCHROMagar上に緑色コロニー(C. albicans候補)を検出(検出率33.3%)したが、CF群(子)では未検出であった。母子のペアの場合、緑色コロニー検出率はCaries群でそれぞれ42.9%(子)、71.4%(母)であった。一方CF群ではそれぞれ0%(子)と33.3%(母)であった。コロニー数は多い順に、Caries群子(3.83E+04 CFU/ml)>Caries群母(1.94E+04 CFU/ml)>CF群母(1.50E+02 CFU/ml)であった。また検体由来のコロニー表現型からS. mutansとC. albicansをそれぞれ分離し、DNA抽出後にPCR法で菌種を同定、臨床分離株収集も並行して実施した。今秋の学会発表に備え、以上の成果を現在まとめている。 以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
被験者からの試料採取、微生物プロファイ ルと臨床分離株の作製は継続する。 ハイドロキシアパタイトディスクモデルにて、臨床分離株を用いた複合B.F.アッセイを行う。複合B.F.の齲蝕関連因子として、B.F.中の生菌数、バイオマス、EPS、齲蝕病原遺伝子(グルコシルトランスフェラーゼや耐酸性遺伝子)、酸産生能を定量し、その病原性を評価する。さらに共焦点レーザー顕微鏡により、臨床分離複合B.F.の3Dイメージングを行う。B.F.形成の過程でS. mutans, EPS, C. albicansそれぞれに異なる染色を施し、視覚的に構造を解析する。S. mutansのマイクロコロニーのサイズ、EPSの厚みと分布、C. albicansの菌糸形態、細菌と真菌の組み合わせパターンを主に観察する。
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Causes of Carryover |
(理由) 実験室株を用いたC. albicansの同定PCR最適条件の検討に時間を要した。そのため臨床分離株(回収サンプル)を対象としたDNA関連試薬類の購入量が当初予定を下回り、次年度使用額として計上した。 (使用計画) PCRの条件検討は令和3年度に終了している。したがって、令和4年度では臨床分離株のDNA抽出キット、DNA増幅キット、プライマー、DNA実験器具の購入代に次年度使用額を充てる。
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