2023 Fiscal Year Research-status Report
細菌-真菌複合バイオフィルムの病原性と母子感染の解明
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21K10196
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
伊藤 龍朗 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (60635126)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 複合バイオフィルム / C. albicans / S. mutans / 早期小児齲蝕 / 母子感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
早期小児齲蝕(Early Childhood Caries: ECC)はバイオフィルム(B.F.)感染症の一つであり、臨床の場で頻繁に遭遇する。ECC患児の口腔B.F.(歯垢)からは S. mutansと共にCandida albicansが高頻度で検出され(ECCオッズ比5倍以上)、さらには母子感染の可能性が示唆されている。C. albicansとECCの関連を調査した疫学研究は「(1)患者情報の統計解析」と「(2)微生物プロファイルの取得」にとどまっており、B.F.の 観点で ECCとC. albicansの母子感染を解析した例はほとんどない。そこで、細菌と真菌が共存した複合B.F.を一単位とし、口腔からの分離株を用いて検討する必要があると考えた。本研究では、ECC患児とその母親の試料からS. mutans-C. albicans複合B.F.を構築し、「B.F. の齲蝕関連因子と構造」という観点で、その病原性とC. albicansの母子感染を明らかにしていく。 令和5年度では、引き続き3歳以上の小児とその母親を対象に、C. albicansとS. mutansの生菌数測定を実施すると同時に、臨床分離株を作成しC. albicansの母子感染をAP-PCRで評価した。その結果、C. albicans検出率はCaries群母47.3%>Caries群子25.5%(子)>CF群母24.0%>CF群子0%であった。またC. albicans保有小児の92.9%が重度ECCであった。母子由来のC. albicansをAP-PCRにて解析したところ、79.7%が株レベルで類似していた。ここまでの成果を論文にまとめて投稿し、令和5年12月にPediatric Dental Journalに受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度では臨床分離株からB.F.を構築し、齲蝕関連因子と構造解析を行う予定であったが、20組の評価では解析の頑健性が低いと判断し、Caries群の被験者数を55組にまで増加させることとした。Caries群(子)ではC. albicansを検出したが、CF群(子)では未検出であった。母子のペアの場合、C. albicans検出率はCaries群でそれぞれ25.5%(子)、47.3%(母)であった。一方CF群ではそれぞれ0%(子)と24.0%(母)であった。C. albicansの生菌数は多い順に、Caries群母(5.7E+04 CFU/ml)>Caries群子(2.8E+04 CFU/ml)>CF群母(1.3E+03 CFU/ml)であった。また検体由来のコロニー表現型からC. albicansを分離し、AP-PCRのバンドパターンに基づいて系統樹を作成することで遺伝的近縁関係と多型を評価した。この段階で結果を一旦まとめることとしPediatric Dental Journalへ投稿、令和5年12月に同誌に受理された。令和5年度に予定していたB.F.アッセイを延期し、論文執筆にその分の時間と労力を投資することで成果を得た。 以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ハイドロキシアパタイトディスクモデルにて、臨床分離株を用いた複合B.F.アッセイを行う。複合B.F.の齲蝕関連因子として、B.F.中の生菌数、バイオマス、 EPS、齲蝕病原遺伝子(グルコシルトランスフェラーゼや耐酸性遺伝子)、酸産生能を定量し、その病原性を評価する。さらに共焦点レーザー顕微鏡により、臨床 分離複合B.F.の3Dイメージングを行う。B.F.形成の過程でS. mutans, EPS, C. albicansそれぞれに異なる染色を施し、視覚的に構造を解析する。S. mutansのマ イクロコロニーのサイズ、EPSの厚みと分布、C. albicansの菌糸形態、細菌と真菌の組み合わせパターンを主に観察する。 本学生物資源科学部 成澤直規准教授らのグループにより、ナットウキナーゼ抽出成分が実験室株のS. mutansに対して有望なB.F.阻害効果を示すことが報告されている。同研究室とは共同研究を推進中であり、本研究で得られたS. mutans臨床分離株を用いて同試験を追試する。
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Causes of Carryover |
当初計画では臨床分離株を用いたB.F.実験を行う予定であったが、令和4年度に引き続き令和5年度においてもCaries群の被験者数を増やすことでデータの充実を図った。被験者の微生物学的プロファイリングには前年度購入分の臨床分離株DNA抽出キット、DNA増幅キット、プライマー、DNA実験器具で十分賄うことが可能であった。そのためB.F.実験関連試薬類の購入に至らず、次年度使用額として計上した。AP-PCRの実施は当初計画にはなかったものの、得られた知見の新規性が高く、被験者の微生物学的プロファイリングと併せて論文を執筆することとした。したがって令和5年度は英文校正代のみに科研費を使用した。 (使用計画) 令和5年度に受理された論文(本研究)の続報を現在執筆中である。そのため学会発表旅費、論文投稿料に次年度使用額を充てる。さらに、次の段階として臨床分離株のB.F.実験へ移行するため、培地、糖量測定キット、染色試薬およびB.F.実験器具(ハイドロキシアパタイトディスク)の購入代に次年度使用額を充てる。
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[Journal Article] Iron oxide nanozymes stabilize stannous fluoride for targeted biofilm killing and synergistic oral disease prevention2023
Author(s)
Yue Huang, Yuan Liu, Nil Kanatha Pandey, Shrey Shah, Aurea Simon-Soro, Jessica C. Hsu, Zhi Ren, Zhenting Xiang, Dongyeop Kim, Tatsuro Ito, Min Jun Oh, Christine Buckley, Faizan Alawi, Yong Li, Paul J. M. Smeets, Sarah Boyer, Xingchen Zhao, Derk Joester, Domenick T. Zero, David P. Cormode, Hyun Koo
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 14
Pages: 60873
DOI
Peer Reviewed
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