2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of new antibacterial oral care agent for the elderly: Attempt from basic experiment to clinical practical use
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21K10219
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
田村 宗明 日本大学, 歯学部, 准教授 (30227293)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
泉福 英信 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (20250186)
阿部 仁子 日本大学, 歯学部, 准教授 (70508671)
植田 耕一郎 日本大学, 歯学部, 教授 (80313518)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高齢者 / 口腔ケア / 予防 / 歯周病 / 口腔と全身疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
「健康は口から」とのスローガンで8020運動が開始されてから33年、高齢者の残存歯数が増加することで口腔機能の維持に一定の成果があがっている。一方、免疫機能を含め心身的な低下がみられる高齢者では、肺炎の約70%を占める誤嚥性肺炎は口腔微生物が関与していることなどから、口腔病原微生物が全身性疾患の発症に関与している可能性が報告されている。さらに残存歯数の増加から口腔二大疾患の罹患率も上昇しており、特に歯周病は糖尿病などの全身疾患の発症と深く関わっていることから、高齢者の口腔ケアは非常に重要となる。 申請者らは、天然抗菌成分のカテキンを含有した口腔ケアジェルを開発してう蝕、歯周病ならびにカンジダ症の原因菌の発育を抑制するが口腔の正常維持に関わる菌には影響を与えない選択的抗菌効果を発見し、口腔疾患が関与する全身疾患の発症予防の可能性と臨床応用への期待を導いた。この経験からさらに高齢者の口腔ケアに有用な新規口腔ケアジェルを開発し、その臨床応用の可能性について検討することとした。さまざまな天然成分やイオンなどから口腔病原菌に抗菌効果を発揮する成分検索を行った結果、ワサビに含まれている揮発性のアリルイソチオシアネートなどのいくつかの天然植物成分と、バイオアクティブガラスから放出される6種類のイオンが抗菌効果を発揮することを見出し、これらの成分は口腔病原微生物の発育と我々宿主に有害な病原因子の抑制効果を示していた。したがって、これらの成分を口腔ケアに使用することは高齢者の口腔内環境の改善とQOLの向上に貢献できるものと考えられ、今後さらに抑制メカニズムを詳細に検討するとともに動物実験および臨床試験を重ねてこの成分含有の口腔ケア剤の臨床応用の可能性について検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高齢者のための新規抗菌性口腔ケア剤の開発を目的として、in vitro実験はバイオアクティブガラスとアリルイソチオシアネートおよびカテキンの抗菌効果実験を実施した。バイオアクティブガラスから放出される6種類のイオンはう蝕および歯周病原因菌に発育抑制効果を示し、細菌細胞内の酸化ストレス過剰産生の関連性を確認した。さらにこれらのイオンは、う蝕原因菌のStreptococcus mutansの歯面付着能や歯周病原菌のPorphyromonas gingivalisの赤血球凝集能およびタンパク質分解酵素の産生能を濃度依存的に抑制していた。アリルイソチオシアネートとカテキンの抗菌効果について、高齢者の肺炎の原因菌のひとつである肺炎レンサ球菌を供試して実験を行った結果、これらの成分は濃度依存的に発育抑制を抑制するとともに、この菌の病原因子のひとつである溶血能を低下させた。さらに溶血能の本体である膜溶解酵素ニューモリシンの遺伝子発現量をreal-time PCR法で確認したところ、両成分とも遺伝子発現レベルで産生を抑制していた。 In vivo実験では、動物実験は大学施設の移設に伴い、実験に制限・停止が課されたことから実験計画通りに進めることが出来なかった。また、臨床実験も現在も継続中のコロナウイルス感染症のため共同研究機関との実施を控えている。しかし、新規抗菌成分を含む臨床用サンプルの開発は進めており、in vivoでの実験再開に向けて準備は出来ている。 今後、in vitroでは他の新規抗菌成分の発見を含めて抗菌効果と機序の解明を、in vivoでは動物実験と臨床実験を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.新規抗菌成分の抗菌機序について:アリルイソチオシアネートとバイオアクティブガラスから放出する6種類のイオンを供試し、これら成分によるさまざまな口腔微生物の細菌細胞内の変化、特にタンパク分解酵素や代謝産物量への影響について調査する。さらにこれら病原因子に関わるmRNA発現量の変化をreal-time PCRで測定して抗菌効果・機序を明確にする。 2.感染動物実験:う蝕原性菌または歯周病原因菌の定着動物(マウスもしくはラット)を用いて、これら抗菌成分のジェルを塗布することによる口腔内病原菌数の変化を培養法もしくはreal-time PCRで評価する。さらに口腔内軟組織および血液を回収し、サンプル内のサイトカイン量を計測して病原菌のみならず宿主組織への影響も検討する。 3.臨床実験:賛同を得ている病院・施設にて抗菌成分のジェルを口腔内に塗布、もしくは抗菌成分を添加した歯科材料を口腔内に装着する。処理前後の唾液などをサンプルとして培養法、real-time PCR法や次世代シークエンシング法(MiSeq, Illumina)を用いて菌数と菌叢を解析し、その変化・影響を明らかにする。同時に口腔微生物の代謝産物の変動も確認するとともに誤嚥性肺炎やインフルエンザ(カテキンの口腔微生物が産生するインフルエンザ解離酵素活性の阻害を確認済み)やCOVID-19の口腔内付着阻害、腸炎や腸内細菌叢への影響などの予防効果を、被験者の臨床症状、体温測定および各種検出キットなどで評価する。
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Causes of Carryover |
研究を遂行するにあたり、新型コロナウイルス感染症蔓延時期と研究施設の新校舎への移動時期が重なったことにより予想していたことよりも研究場所・時間とマンパワーがとれなかったこと、さらには動物実験・飼育者の移転による実験が停止したことなどにより当初使用予定であった予算を使用できなかった。さらにコロナ禍により予定していた歯科基礎医学会総会および日本細菌学会総会への発表がオンラインとなり、旅費が不要となったため残金が生じた。 次年度への繰越金は、令和4年度の助成金と合わせてin vitro実験、特に抗菌成分の病原微生物の病原因子に及ぼす抑制効果とその作用機序について詳細に検討するとともに、in vivoでは動物実験、臨床実験を実施して臨床応用への可能性について検討する予定である。
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Research Products
(11 results)