2023 Fiscal Year Research-status Report
フッ化ジアミン銀とレーザーアブレーション法を併用した選択的う蝕除去法の開発
Project/Area Number |
21K10236
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
楠瀬 隆生 (桑田隆生) 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (10398852)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
布施 恵 (長井恵) 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (30343578)
岩井 啓寿 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (10453888) [Withdrawn]
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | レーザーアブレーション / 銀溶液 / フッ化ジアミン銀 / う蝕除去 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、銀溶液塗布う蝕部におけるfsレーザー(自由電子レーザー, FEL)照射効果の検証、が2023年度の主要な課題である。2022年度までは加速器の不調などの影響により、FEL照射実験を実施できなかったが、2023年度はフッ化ジアミン銀(SDF)溶液を塗布した健常象牙質に対してFELを照射し、SDF溶液塗布の有無によるレーザーアブレーション(LA)効果の差を検証するに至った。これらについて以下にまとめる。 健常象牙質にSDF溶液を塗布し、SDF溶液塗布した象牙質と未塗布の象牙質に対して波長2800mmのFELを照射した。その後、各部で照射により形成されるピットの深さを測定し比較したところ、平均強度3.99mJ/micro-pulseのFELをSDF溶液塗布部、未塗布部のそれぞれに照射した場合、形成されるピット深さは塗布部で平均0.033 mm、未塗布部で平均0.031 mmであり、両者の間に顕著な差は認められなかった(P=0.43)。一方、平均強度1.24 mJ/micro-pulseのFELを照射した場合、SDF溶液塗布部で形成されるピット深さは平均0.015 mmであるのに対し、未塗布部ではピット深さは平均0.006 mm、と両者の間に明確な差が認められた(P<0.001)。この結果は、照射強度が強いとSDF塗布部と未塗布部の間でLA効果に差が出ず、照射強度が弱いと差が生じることを示している。LAは照射強度がある一定の強度(アブレーション閾値)を超えると生じる現象であり、今回の結果は、SDF塗布によりアブレーション閾値に変化し、より弱い照射強度でもLAが生じたものと推定される。この結果は、SDF塗布とfsレーザー照射の併用により、より弱い強度のレーザー照射による選択的な歯質除去の可能性を示しており、為害性の少ない歯質除去法への発展の可能性を示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本申請研究は(1)銀溶液塗布によるう蝕検出の汎用性の検証、(2)銀溶液塗布う蝕部におけるfsレーザー照射効果の検証、が主要な課題である。(1)については2022年度までに、銀溶液塗布に伴う象牙質歯質の性状変化をFTIR測定により分析することで、一定の成果を得るに至っている(成果は3回の学会発表にて公表)。 一方、(2)のfsレーザー照射効果の検証では、日本大学電子線利用研究施設で開発したFELを利用予定であったが、2020年に生じたレーザー発生装置の主要部(加速器クライストロン電源:RF源)の故障により、実験予定期間での照射実験の機会を得られなった。その影響により、研究計画では2021度から開始を予定していたレーザー照射実験が、2023年度からの開始と、計画に遅延が生じることとなった。しかし、2023年度からの照射実験により、「研究計画の概要」に示した様な一定の成果を挙げることができ、その成果は2回の学会発表などで公表している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究でも引き続き、銀溶液塗布う蝕部におけるfsレーザー照射効果の検証を実施する。「研究成果の概要」にも示した通り、SDF塗布とfsレーザー照射の併用による選択的なう蝕除去の可能性が示されたため、今後はより効果の高い照射強度や照射波長などの探索を行い照射条件の最適化を進める。特にLA効果に明確な差異を起こしうるアブレーション閾値の検証は、う蝕除去法の実用化に向けた重要な基礎データとなりうるため、閾値となるレーザー強度の探索を中心に実施することを計画している。 一方、歯質の組成変化の検証では、これまでの研究により、FTIR測定により組成変化だけでなく結晶系の変化など、新たなデータを習得可能であることが明らかになっている。そのため、銀溶液塗布およびfsレーザー照射の併用によって生じうる歯質の性状変化を検証するために、FTIR測定による組成・結晶性の変化の分析、さらにはX線回折法(XRD)やエネルギー分散型X線分析装置付走査顕微鏡などを用いて、銀溶液塗布からレーザー照射後の歯質構造に生じる変化を総合的に検証する予定である。
|
Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に示した様に、加速器の不調などの影響により、レーザー照射実験の開始が遅れたため、照射実験に関わる施設使用料などに未使用分が生じている。次年度はそれら実施できなかった研究を前期から夏季休暇に集中して実験を実施することを検討しており、その費用に使用予定である。なお、研究実施に必要な実験施設への共同利用研究課題申請や日本大学量子科学研究所兼任所員への応募は既に済ませている。
|
Research Products
(2 results)