2021 Fiscal Year Research-status Report
効果的な社会的処方を実践するための地域共通モデルシステムの開発
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21K10279
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
牧石 徹也 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (60898708)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社会的処方 / 健康の社会的決定要因 / SDH / 健康格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、効果的な社会的処方を実践するためのモデルシステムを構築しその普及を図るものである。具体的には、①患者が外来を受診した際に病歴とは別に、患者の社会的背景について系統的に聴取する方法を開発し、②医師・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカー等の多職種で利用可能な社会制度や地域資源についての情報を共有し社会的処方を実践する仕組みを開発することを目的としている。 2021年度は、大田市の医療および福祉関係者との意見交換により、医療者が把握すべき患者の社会的背景、また円滑な社会的処方を阻む因子について、それぞれ具体的因子の掘り起こしを行った。 大田市健康福祉部医療政策課、大田市社会福祉協議会、県央保健所、大田市立病院総合診療科および地域連携室等の担当者で合計2回のミーティング及びメール等で意見交換を行い、下記の知見を収集した。 医療者が把握すべき患者の社会的背景については、地域的要因(受診手段、身近に支援者(潜在的支援者含む)がいるか)、家庭的要因(経済的困窮具合、家事育児の支援者の有無、公的支援等へのリテラシーの有無、患者自身の状況(フレイル、認知症の有無等)、家庭内キーパーソンの有無)が挙がった。 円滑な社会的処方を阻む因子の具体例については、地域的要因(住民同士の繋がりが弱い、精神科受診や生活保護受給についての偏見の存在)、家庭的要因(相談先や相談手段がわからない、家族のプライバシーを知られたくない、本人に困り感がない)、行政的要因(各機関の役割分担が曖昧、情報の共有や連携が不十分、窓口となった担当者が次に繋げる先を知らない、総合相談窓口がない、コーディネーターの不在、人員不足)、医療的要因(受診されないと接点ができない、経済状況の把握が困難、次に繋ぐサービスが分からない)が挙がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今後、県内の各医療機関と連携して行うA. 「社会的背景についての系統的な聴取方法の開発」に向け、今年度は大田市の医療・福祉関係者とのミーティングにより、「医療者が把握すべき社会的背景の質問項目」について具体的事例を通じて「質問項目」の掘り起こしを行った。しかしながら、具体的事例を通じて関係者と議論を行う中で、患者の抱える「社会的背景」は非常に多岐に渡ること、そしてそのような「社会的背景」を聴取するには当然ながら患者や患者家族の心理的障壁が存在することが浮き彫りとなった。改めて現場において妥当かつ有用な「系統的な聴取法」とはどんなものか、議論を重ねる必要がある。また、島根県下での新型コロナウイルス流行等により、県下の他の医療機関との打ち合わせや連携が困難であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、島根県内の総合診療専門医養成プログラムを有する11の医療機関の総合診療科および各医療機関の地域連携室へのアンケート調査および合同ミーティングを実施して、A. ① 医療者が把握すべき社会的背景の質問項目の選定、② 社会的背景に関する質問項目の文言作成、③ 患者背景に関する個人情報の各医療機関における管理方法を策定、④ 社会的背景を聴取する患者対象の選定を行う。 また、B. 「社会的処方実践に際しての地域共通の運用モデルを開発」すべく、まずは大田市において、① 大田医療圏における公的支援へのアクセス方法(例:どの窓口で手続きができて、どのような事前書類が必要か、等)をリストアップしデータ化、② 大田医療圏における“地域資源”情報をリストアップしデータ化、③ 効率的に公的支援や地域資源を仲介できるようなシステムの構築、④ 医療者側で対応可能な配慮の事例収集とデータ化を行い、モデル化した上で、2023年度には、島根県下の他の医療圏への適用を試みる。
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Causes of Carryover |
研究計画に遅れが生じ、予定をしていた研究内容が実施できなかった。 2022年度は、「医療者が把握すべき社会的背景の質問項目の選定」を行い、また「 大田医療圏における公的支援へのアクセス方法のデータ化」、「大田医療圏における“地域資源”情報をリストアップしデータ化」までを行う。データ化に際しては、タブレット型端末を複数台購入し、関係者に配布し、情報の共有等を行う。 また関連する書籍の購入、ミーティングの開催等を予定している。
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