2022 Fiscal Year Research-status Report
AI技術と波形解析による血液透析治療時の流路異常検知システムの開発
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21K10291
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Research Institution | Kawasaki University of Medical Welfare |
Principal Investigator |
小野 淳一 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 准教授 (50435351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
逸見 知弘 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 准教授 (00413849)
立花 博之 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 准教授 (00241216)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 血液透析 / 流路異常 / 人工知能 / 医療安全 / 臨床工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,既存の透析装置で測定可能な透析回路圧力波形解析とAI技術を組み合わせることにより,透析治療中の実血流量,血液粘性度,回路抵抗値 のリアルタイム推定を行い,抜針や回路閉塞等の流路異常を検知するシステムを開発することである。 今年度の代表的な結果として、以下3点について実施した。
1.透析回路内圧(動脈・静脈チャンバー内圧)平均値とローラーポンプ特性を用いた、フィルター流量(FF)、返血流量(Fv)推定法を考案し、その推定精度を検討した。この評価法を用いることにより、各流量の推定精度を評価したところ、新たにセンサを設置することなく、回路内圧から推定誤差10%以内で実血流量を推定可能であることを確認した。 2.血流比(Flow Ratio=FF/Fv)を用いた流路異常の検出法を考案し、透析治療中に発生する流路異常(抜針事故、回路内凝血)を従来法よりも迅速に検知できることを確認し、特許申請1件と学会発表を行った。共同研究者の立花は、上記流路異常検知法を実装したエッジコンピュータシステムの開発を進めている。今後、実際にこのエッジコンピュータシステムを用いて流路異常を検知すると透析装置が停止する機構を新たに作成し、Flow ratioを用いた流路異常を自動的に検知し安全状態を確保できるか検証を予定している。 3,共同研究者の逸見は透析装置のモータ駆動音に着目し、事前に正常時と異常時のモータ駆動音のサンプル信号に基づいて透析中の駆動音との類似度を比較し、回路異常の検出を行う手法を考案した。今年度、駆動音信号スペクトル解析のパワースペクトル図を相互相関関数を用いて類似度を比較することで,検出精度の向上が可能であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎実験にて、透析治療中の抜針事故を再現できる抜針再現モデルを作成した。このモデルは、一定速度で抜針する駆動部と抜針状態を定量化する牽引力センサ、出血による漏れ検知を行う漏水センサを有している。この抜針再現モデルを用いることにより、抜針事故の状態(血管外出血、完全抜針)を定量化することが可能となった。 次に、透析回路内圧(動脈・静脈チャンバー内圧)平均値とローラーポンプ特性を用いたフィルター流量(FF)、返血流量(Fv)の推定法を考案し、その有用性を検証した。まず、各流量の推定精度を評価したところ、推定誤差10%以内で推定可能であることを確認した。また、Flow Ratio(=FF/Fv)を用いることで、脱血不良と流路異常を明確に分離することができ、従来法と比較し、迅速に流路異常を検知することができることを確認した。共同研究者の立花は、上記流路異常検知法を実装したエッジコンピュータシステムの開発を進めている。今後、実際にこのエッジコンピュータシステムを用いて流路異常を検知すると透析装置が停止する機構を新たに作成し、Flow ratioを用いた流路異常を自動的に検知し安全状態を確保できるか検証を予定している。
共同研究者の逸見は、昨年度、透析装置のモータ駆動音に着目し、事前に正常時と異常時のモータ駆動音のサンプル信号に基づいて透析中の駆動音との類似度を比較し、回路異常の検出を行う手法を考案した。今年度、駆動音信号スペクトル解析のパワースペクトル図を相互相関関数を用いて類似度を比較することで,検出精度の向上が可能であることを確認した。
以上の結果を得たことから、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年開発を行った透析回路(動・静脈チャンバー)内圧波形情報を用いて平均血流量を推定する機械学習モデルについて、透析液ポンプを動作させない状態で、良好な平均血流量の推定が可能であることを報告した。次の段階として、実際の透析治療状態を模擬して、透析液ポンプを動作させて実験を行った結果、血液ポンプと透析液ポンプの拍動成分が干渉し、うなりが発生し、回路内圧波形に大きな影響を及ぼすことが確認された。したがって、この透析液ポンプの干渉を加味した血液ポンプ流量(FP)の推定について現在検討を進めている。 この手法とは別に、今年度、新たにフィルタ流量(FF)と返血流量の比(Flow Ratio=FF/Fv)を用いた流路異常の迅速検知法を考案し、その有用性について検討した。その結果、新たなセンサを設置することなく、FF、Fvともに推定誤差10%未満と優れた実血流量の推定が可能であった。さらにFlow Ratioを用いることにより、脱血不良の影響を受けず、抜針ならびに回路内凝血を迅速に検知できることを確認した。しかし、フィルタ部、返血部の2箇所に同時に凝血が発生すると、正確な流路異常の評価が困難となる。これに対して、ローラーポンプ部ではその構造上回路凝血は発生しにくい。したがって、来年度は、血液ポンプ流量(FP)の推定法を確立した上で、FF/FP、FV/FPを用いることにより、流路異常の正確な評価が可能となることが期待できる。このため、FPを推定する機械学習モデルの開発を進めていく。また、立花が開発を進めているエッジコンピュータシステムと同時に、透析装置とのリンケージのための周辺機器、同電子制御回路の構築を行い、上記のモデルを導入し、実際に流路異常の検知、異常状態の回避性能を評価予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が10万円程度発生したが、凝血を目視で観察するために蛍光物質を使用した凝血直接監視法の導入を検討している。このために必要な光学フィルタと近赤外線カメラ、光源の購入を検討したが、予算を超えたため、次年度に購入することにした。このため、次年度使用額が発生した。
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