2023 Fiscal Year Research-status Report
Does Dental Care Really Affect General Health? -Health economic review-
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21K10292
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
内藤 徹 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (10244782)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 誤嚥性肺炎 / 口腔ケア / 医療費 / 予防介入 / Quality of Life / コスト効果分析 / 医療経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔の健康はさまざまな全身疾患と関連があることが明らかになってきている。糖尿病や早産、脳血管疾患、リウマチなどとの関連が疑われているが、とくに高齢者において口腔ケアとの関連が強く訴えられており、経済的にも利得が大きいと考えられているのが誤嚥性肺炎である。 口腔ケアと誤嚥性肺炎の関連については、日本において1998年ぐらいから関連を示唆する報告が相次ぎ、歯科医療の標準的な方策となりつつある。ところが2022年にCochrane Libraryから口腔ケアが高齢者施設の肺炎予防に効果があるかどうか懐疑的だとするレビューが発表されて、状況が急展開している。 高齢者に対する口腔ケアの効果を調べたランダム化比較試験は、日本において3件、米国において2件、フランスにおいて1件行われているが、これらに共通して採用されているアウトカムは肺炎死のみであった。しかも、6件のランダム化比較試験をメタアナリシスの手法によって統合してみたところ、肺炎死を減少するかどうかは確定されていない。 今年度の研究においては、これまでの高齢者に対する口腔ケアの肺炎予防の効果を調べた研究のメタアナリシスを実施し、はたして誤嚥性肺炎予防に効果的といえるかどうかを判定することを目的として文献レビューによる分析を行うこととした。 これまでのところ、口腔ケアによって肺炎が減少するかどうかという仮説に対しては、ポジティブな報告が1例あるものの効果がないとする報告も見られる。これまでの報告のうち、肺炎発症に対する口腔ケアの効果についてランダム化比較試験によって検討を行ったもののみから結果を抽出してメタアナリシスを行うと、統合したリスク比は効果ありともなしとも判定できない0となり、95%信頼区間においても-0.12~0.12と、口腔ケアによって肺炎発症が減少するとは言いがたい結果となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、高齢者に対する口腔ケアと誤嚥性肺炎というピンポイントでの効果分析を中心に進めることとした。 関連文献の網羅的な収集を行い、ハンドサーチにて600件を越える文献セットから、GRADEシステムによる質の評価を行ったうえで、データ抽出可能な文献を選択した。文献検索の結果、該当するランダム化比較試験は4件のみ抽出された。 これまでのところ、口腔ケアによって肺炎が減少するかどうかという仮説に対しては、ポジティブな報告が1例あるものの効果がないとする報告も見られる。これまでの報告のうち、肺炎発症に対する口腔ケアの効果についてランダム化比較試験によって検討を行ったもののみから結果を抽出してメタアナリシスを行うと、統合したリスク比は効果ありともなしとも判定できない0となり、95%信頼区間においても-0.12~0.12と、口腔ケアによって肺炎発症が減少するとは言いがたい結果となっている。 日本において行われているYoneyamaら(2002年)とAdachiら(2002年)から抽出されたデータを用いた統合リスク比は口腔ケアによる肺炎による死亡の減少を支持しているが(リスク比0.43、95%信頼区間0.25~0.75)、観察期間および診断基準が異なるためデータの統合が行えなかったBourigaultら(2011年)の報告においては減少を認めないと結論づけられており、普遍的に支持されているわけではない。 口腔ケアにはコストが発生し、介護の現場にも負担が生じる。さらには施設において適切な口腔ケアが行われていない場合には問題と捉えられる可能性まで発生する可能性がある。現時点において口腔ケアをさらに推奨していくためには、さらに確実なエビデンスの蓄積を要すると判断した方がよいのではないかと結論される。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の研究においては、高齢者に対して口腔ケアを実施し、肺炎発症あるいは生命予後を比較したランダム化比較試験を抽出した。ただし、外科手術の際にクロルヘキシジン溶液にて口腔の清拭を行うことによって術後の肺炎予防を比較した研究や、人工呼吸器の使用に起因する肺炎(Ventilator-associated pneumonia)の口腔ケアによる予防について検討を行った研究は除外し、いわゆる市中肺炎の中の誤嚥性肺炎や医療・介護関連肺炎(Nursing and healthcare-associated pneumonia、NHCAP)の予防として口腔ケアが有効かどうかの検証を行ったものを選択して、検証を行った。 肺炎は過去の疾患ではなく、高齢者にとっては依然として死に至る脅威として存在しており、歯科医療従事者における予防介入の可能な疾患として捉えるべきと思われる。今回の結果を精密に検討し、ガイドライン等に正しい情報を反映できるように進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況において、とくに医療経済分析に必要なセミナーの受講や協力施設への訪問ができなかったため、予定していた支出を行うことができなかった。 今年度は必要な作業を行い、適切に使用していく予定である。
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[Journal Article] Effects of oral health-related quality of life on total mortality: a prospective cohort study2023
Author(s)
Nishiki Arimoto, Rumi Nishimura, Teruo Kobayashi, Mayuka Asaeda, Toru Naito, Masaaki Kojima, Osami Umemura, Makoto Yokota, Nobuhiro Hanada, Takashi Kawamura, Kenji Wakai & Mariko Naito.
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Journal Title
BMC Oral Health
Volume: 23
Pages: 708
DOI
Peer Reviewed / Open Access