2021 Fiscal Year Research-status Report
偶発的所見(IF)・二次的所見(SF)の返却における非医学的対処可能性の検討
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21K10375
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大橋 範子 大阪大学, データビリティフロンティア機構, 特任助教(常勤) (50739430)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ゲノム・遺伝子解析 / 偶発的所見 / 二次的所見 / 非医学的対処可能性 / ELSI |
Outline of Annual Research Achievements |
全ゲノム解析など網羅的なゲノム・遺伝子解析の普及とともに、研究や医療の「本来の目的」を超えて判明する偶発的所見(IF)・二次的所見(SF)の取り扱いが問題となり、これまでにも多くの議論・検討が重ねられてきた。それらは主に、IF・SFの返却の是非や、返却の方針を採った場合の課題(返却の体制や、返却の判断基準となる対処可能性(actionability)等)をめぐるものである。 このうち、対処可能性に関しては、従来「医学的対処可能性(clinical actionability)」について論じられることがほとんどであった。しかし、「非医学的対処可能性」、すなわち「人生設計上の対処可能性」(結婚・生殖・就職における自己決定に役立つ等)や、「第三者・社会にとっての対処可能性」(予兆なく失神や突然死を引き起こす疾患の発症可能性が判明した場合、公共交通機関の運転士になることを制約することで、第三者を巻き込む事故を回避できる等。但し、重大な人権侵害につながるため慎重な議論が必要)の検討も本人や配偶者・血縁者、さらに社会にとって非常に重要な意味を持つ。そこで、本研究は、この非医学的対処可能性を対象とした。 令和3年度は「第三者・社会にとっての対処可能性」に軸足を置きつつ、「人生設計上の対処可能性」についても研究を進めた。 具体的には、①IF・SFに関連した国内外の文献調査・有識者へのインタビューや学術交流による情報収集等、②日本の現状や課題の精査及び論点整理、③海外(ドイツ、スイス等)の遺伝子診断関連法規や規制の現状調査である。(「第三者・社会にとっての対処可能性」については①~③、「人生設計上の対処可能性」については①・②) これらの成果として、第33回日本生命倫理学会年次大会(2021年11月)において、演題「偶発的所見・二次的所見の返却における非医学的対処可能性の検討」の口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、研究対象の「非医学的対処可能性」のうち、当初の計画に従い、「第三者・社会にとっての対処可能性」を中心に研究を進め、①IF・SFに関連した国内外の文献調査・有識者へのインタビューや学術交流による情報収集等、②日本の現状や課題の精査及び論点整理、③海外(主にドイツやスイス)の遺伝子診断関連法規や規制の現状調査を行った。 しかし、新型コロナ感染症流行の影響で、学会等での学術交流やインタビューといった情報収集の機会が、当初計画していたより縮小したこともあって(オンライン利用により、ある程度の実施は可能であったが、補えない部分もあった)、全体に若干の遅れが生じており、特に③については具体的事例と裁判例の調査にまでは至っていない。 一方、「人生設計上の対処可能性」については、令和4年度に予定している一般市民を対象とする意識調査(「第三者・社会にとっての対処可能性」と「人生設計上の対処可能性」の両方を対象)の実施に向け、当初の計画通り①・②を行うことができた。令和4年度末には、全体としての進捗の遅れはかなり取り戻せるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
IF・SFに関連した国内外の文献調査・有識者へのインタビューや学術交流による情報収集等は、令和4年度も引き続き行い、情報のアップデートを図っていく。また令和3年度に実施できなかった、海外(ドイツやスイス等)の関連法令下での実際の裁判事例等の調査については優先的に進める予定である。 令和4年度には、一般市民を対象とした、非医学的対処可能性及びそれに基づくIF・SFの返却に対する意識調査の実施を計画しており、令和3年度に達成した研究成果と、令和4年度における研究をもとに質問紙案を作成し、有識者らとの検討会を設ける等により内容を吟味し、年度末には実施する。この調査結果は最終年度に学会発表・論文等の形で公表していくことを予定している。
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Causes of Carryover |
(理由) 新型コロナ感染症流行の影響で、予定していた対面での研究活動(研究会開催や有識者へのインタビュー)の回数が減少したり、オンライン開催へ変更したりしたことにより、謝金・会場費・旅費等が不要または縮小したため。また、海外の現況・動向調査のうち、具体的な事例や判例の調査が進まなかったことにより、翻訳や音声データ文字起こしの費用が不要となったため。 (使用計画) 令和3年度に滞った海外の現況・動向調査(特に、遺伝子診断関連法下のドイツやスイスでの裁判事例等の調査)を令和4年度に行う予定であり、令和3年度に使用するはずだったそのための費用はそこで必要となる。また、令和4年度に実施する、一般市民を対象とする意識調査では、サンプルサイズを増やすことを検討しており、それに充当する予定である。
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Research Products
(1 results)