2021 Fiscal Year Research-status Report
介護老人福祉施設でのアドバンスケアプランニングにおける医学的妥当性と適切性の意義
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21K10384
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
柏崎 郁子 東京女子医科大学, 看護学部, 助教 (90826702)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 終末期 / QOL / 看護 / ACP / 生命倫理 / 専門職倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、特別養護老人ホーム(特養)でのAdvance Care Planning(ACP)における看護職と医師による医学的妥当性と適切性判断にかかわる日常活動を、参与観察とインタビューによって明らかにしようとするものである。調査方法は参与観察とインタビューの2段階で構成される前向き観察研究である。調査に先立ち、本年度は主に文献レビューを実施し論文化した。 ACPでは、主として終末期患者の治療にかかわる意思決定が問題になることから、終末期と治療選択にかかわるQOLの概念についてレビューを行い論文化した。本論文においては、生命倫理学と医療の分野での終末期とQOLに関する先行研究の議論を参照し検討することを通して、終末期という概念の不確実性と、患者のQOLに基づいて医療を選択することの危うさについて論じ、患者の QOL 評価や終末期の措定は治療の差し控え・中止と接近した関係にあることを明らかにした。また、ACPにおける看護職と医師の医学的妥当性と適切性判断にかかわる日常活動について調査するに先立ち、医療における看護職のアイデンティティの成り立ちと倫理がどう構築されてきたかについて文献に基づく考察を行い論文化した。本論文では、生存期間の延長を目的とした医療が、人々(とりわけ医療者)に歓迎されない事態になっていることを改めて指摘したうえで、そのような医療にかかわる看護師がどのようなアイデンティティと倫理に基づき行動しうるのか、現代日本で影響力のある生命倫理学の文献と、看護のアイデンティティの原点としてフローレンス・ナイチンゲールの著書を参照することを通して考察した。 これらの文献レビューにより、今後の参与観察とインタビューに用いるガイド作成に視点が与えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は参与観察とインタビュー調査に先立つ文献レビューを予定しており、その研究計画に基づき文献レビューを実施し、その成果は2本の論文として発表(印刷中含む)された。 ACPでは、「自己決定」を尊重することと「当事者の利益」を考慮することの両要素が重要とみなされるが、一方で、「医療・ケア行為」の「開始・不開始・変更・中止等」は、「医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである」ともされる。すなわち、終末期の意思決定において、当事者の自己決定が不明確な場合には、医学的妥当性と適切性を基に、特に慎重に判断する必要があることが示唆されているといえる。しかし、特養では、高齢ではっきりとした予後予測指標がない疾患を抱えている人や、認知機能の低下によって「自己決定」が困難とみなされる事態がACPの障壁となりうる。そこにおいて、先行研究が示唆するように、ACPなどの事前計画が「治療を制限するメカニズムとして機能する」ことに警戒する必要もある。つまり、特養では、当事者の自己決定が不明確な場合が多く、そのため、厚労省のガイドライン(2018)が示すように、医学的妥当性と適切性を基に、特に慎重に終末期の医療について判断することがACPを適切に機能させるための重要な条件となるといえる。 そのため、特養でのACPを調査し課題を抽出するにあたっては、そもそもACPが必要とされる背景としての終末期、QOL、生存期間の延長を目的とした医療、というそれぞれの概念の成り立ちやこれまでの議論を整理し、論点を抽出しておくことが必要となる。 本年度実施した文献レビューの成果は、次年度以降のフィールド調査におけるガイド作成の骨格を形成するものであることから、本年度の研究進捗は概ね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降では、フィールド調査の実施を行う。フィールド調査におけるガイド作成の骨格を形成する文献レビューは概ね順調に進んでいるが、既に行われた文献レビューを通して明確になった課題もある。 本研究は、特養でのACPにおける看護職と医師による医学的妥当性と適切性判断にかかわる日常活動を、参与観察とインタビューによって明らかにしようとするものであるであることから、調査においては、看護職と医師それぞれの専門性について提示しうる考察を予め経ている必要がある。そのため、今年度は看護の専門性を考察するため先行研究の検討を行い、医療にかかわる看護師がどのようなアイデンティティと倫理に基づき行動しうるのか、先行研究をもとに検討し論文化した。これを通して、今後の課題として、医学と看護学の分離と併存、あるいは患者も含めた共同性の問題についてさらなる考察の必要性が明らかになった。 そのため、本年度の前半は文献レビューを継続しつつ、調査対象施設の選定と調査対象者への説明と同意を平行して実施する必要がある。フィールド調査にあたっては、Covid-19等の感染症対策は施設の方針に従うが、今後の感染流行状況によって調査の進捗状況は左右される可能性がある。その際は、調査方法についてリモートを用いたインタビュー調査など、調査対象者と相談の上柔軟に検討し対応していく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度、助成金での購入を予定していたPC等の機器の購入必要が生じなかったこと、遠隔地に赴いての研究打ち合わせがリモートで行われたため次年度使用額が生じた。次年度以降の研究において必要となるため使用予定である。
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Research Products
(2 results)