2021 Fiscal Year Research-status Report
監察医機関における熱中症解剖例の分子診断・病態解明、背景分析に関する研究
Project/Area Number |
21K10522
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉澤 秀憲 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (90739905)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 謙一 東京医科大学, 医学部, 兼任教授 (40166947)
前田 秀将 東京医科大学, 医学部, 准教授 (60407963)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 熱中症 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱中症の発生状況に関する疫学調査: 2018年から3年間、大阪府監察事務所で取り扱った熱中症事例の発生要因を分析した。その結果、大部分、独居高齢者の非労作性熱中症による自宅死亡であり、死亡例は、梅雨明け後、初めて35℃を超えた日から猛暑日が続く約2週間以内に集中していた。また、自宅内発症例の発見時室温は、大部分29℃以上であり、エアコンが設置されているのに、オフの事例が少なくなかった。夏季、腐敗後発見される死亡例の多くが、熱中症による孤独死であり、高齢者の孤立化に加えて、コロナ禍の影響が推定された。 解剖・組織学的検査・血液バイオマーカーに関する研究:熱中症による死亡は、既往症のある高齢者に多い。熱中症による死亡は、環境温、直腸温、疾患による死亡の除外等を基に診断するが、夏季、熱中症死亡と疾患死亡の鑑別は、熱中症しやすい疾患、及び、特異的な解剖・組織・血液検査所見があまり知られていないので、実質上、不可能である。そこで、熱中症に特異的な解剖・組織・血液所見を探索した。その結果、既往症の有無に関わらず、クレアチニン・BUN上昇を示す事例が多く、脱水・腎不全の熱中症死への寄与が推定された。ミオグロビン尿を伴う横紋筋融解症も多かった。さらに、肺鬱血(担鉄マクロファージ)の組織所見、末梢血NT-proBNP上昇を示す事例が多く、心不全の寄与を示していた。新たに、ケトン体上昇(ケトアシドーシス)を示す事例が多いことを見出した。 HMGB1を指標とした免疫組織学的研究:HMGB1は、組織・炎症細胞から分泌され、自然免疫受容体を活性化して、サイトカイン分泌を介する炎症反応と臓器障害を誘発する。ヒト組織におけるHMGB1免疫組織化学法を確立し、熱中症診断例と対照例の肝臓を中心に分析した。その結果、熱中症と関連したHMGB1の局在・量の変化を見出すことはできなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱中症の発生状況に関する疫学調査: ほぼ調査が終わり、2つの論文として発表され、大阪府健康医療部から研究結果が、予防対策とともに保健所などにフィードバックされている。 解剖・組織・血液研究:熱中症と、肝疾患(組織病変)とケトアシドーシス(血液検査)の関連を示唆するデータがある程度揃っている。現在、熱中症症例のケトアシドーシスに関する最初の論文を執筆中である。 熱中症に、腸内細菌血中移行に伴う全身性炎症反応証拠群(SIRS)とそれに伴うサイトカイン血症が寄与しているといわれている。そこで、HMGB1を指標として、肝臓内で自然免疫と臓器障害が活性されている細胞・病変を探索したが、熱中症に特異的なHMGB1の変化を見出すことはできなかった。 血液バイオマーカーに関しては、既往症に関わらず、クレアチニン・BUN上昇を示す事例が多く、脱水・腎不全の寄与が推定された。また、ミオグロビン尿を伴う横紋筋融解症も多かった。さらに、肺鬱血(担鉄マクロファージ)の組織所見、末梢血NT-proBNP上昇を示す事例も多く、心不全の寄与が推定される。今回、他に先駆けて、熱中症事例にケトン体上昇(ケトアシドーシス)を示す事例が多いことを見出した。今後、事例を増やして、高温環境と上記血液(尿)マーカー、特に、ケトアシドーシスとの因果関係について、統計学的有意性を確認する必要がある。 microRNAに関する研究:血中microRNA (miRNA)は、死後にも安定な疾患バイオマーカーとして注目されている。Filgen GenChip miRNA Array受託分析を用い、熱中症事例が、その他の事例より16倍以上増加したmiRNAを4種見い出した。これら、miRNAが実際に増えているか、real-time PCRを用いて確認する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
熱中症の発生状況に関する疫学調査: 今後、解剖・組織・血液・microRNAに関する研究が進み、背景因子の調査が求められることが予想される。必要な因子に関して、追加の疫学研究を行う。また、日本救急医学会に連絡して、監察医事例と同様の項目について、前年度、調査を依頼した。返事はあったが、具体的な協力には至らなかった。今年後、早期に、調査依頼をし、監察医事例(死亡例)と救急事例(救命例)について、発生状況、背景因子を比較検討する。 血液バイオマーカーに関する研究:昨年度、熱中症事例で、血液中のクレアチニン、BUN、NT-proBNP等、尿中のmyoglobinの上昇を多数認めた。事例を増やして、熱中症、あるいは、環境温、直腸温との相関関係、疾病の既往歴や組織病変との関連性を調べる。 昨年度、熱中症事例にケトアシドーシスが多いことを見い出した。今年度、事例を増やして、高環境温、高体温とケトアシドーシスの因果関係について、統計学的有意性を確認する。また、因果関係を認めた場合、交絡因子、及び、発症機序を解明する方向に研究を進める。具体的には、事例を増やして、交絡因子となる疾病の、統計的有意差を確認し、他の血液検査項目や組織所見等との関連性を調べる。 microRNAに関する研究: Filgen GenChip miRNA Array受託分析を用いて見出した、熱中症事例において増加していたmiRNAを4種について、real-time PCRを用いて、実際にmiRNAが増加していることを確認する。 多くのmiRNAについて特定の疾患の関連性が知られている。そこで、環境温、直腸温、既往症、他の血液バイオマーカーと、miRNAの関連性を調べて、まず、熱中症に特異的なmiRNAを見つける。次に、血液バイオマーカー、及び、既知の疾患とmiRNAの関連性を調べて、熱中症に関連する病態を解明する。
|
Causes of Carryover |
進捗状況および今後の推進方策に記載したように、特に、real-time PCRを用いて、熱中症に関連するmiRNAを同定し、事例を増やして、熱中症特異的であることを確認する必要がある。そのための関連する試薬、器具などの購入や血液バイオマーカーの検索、組織学的検査にも費用が必要となる。また少なくとも、3報程度の英文論文の校正費用、投稿費用が必要になる。
|
Research Products
(3 results)