2023 Fiscal Year Research-status Report
Neural substrates of separate hand movements using brain state-dependent stimulation
Project/Area Number |
21K11174
|
Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
緒方 勝也 国際医療福祉大学, 福岡薬学部, 教授 (50380613)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桐本 光 広島大学, 医系科学研究科(保), 教授 (40406260)
中薗 寿人 福岡国際医療福祉大学, 医療学部, 准教授 (70814771)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 運動誘発電位 / 経頭蓋磁気刺激 / 一次運動野 / 脊髄前角細胞 / F波 / 巧緻性 |
Outline of Annual Research Achievements |
手内筋群の運動の調節は手指分離・共同運動の基礎となり、精密な制御が背景にあるが、その詳細な神経基盤は未解明の部分が残されている。本研究計画ではF波、運動誘発電位(MEP)を手内筋群で記録し、その安静時での観察される変動から脊髄、一次運動野で生じている手内筋群の興奮性調節の神経基盤を明らかにすることを目的とする。 第一段階として右手短母指外転筋(APB)、第一背側骨間筋(FDI)、小指外転筋(ADM)より表面筋電図を計測し、正中神経、尺骨神経の単独刺激あるいは同時刺激によりF波を記録した。その中でADMに比しFDIで同時刺激による振幅促通が生じ、母指-示指間の方で母指-小指間よりも相互作用が強いことが示唆された。つまみ動作など母指-示指間での分離・共同運動を生じる場面は日常生活でも多く、その機能を反映している可能性が示唆された。 続いてF波とMEPの手内筋群での相互作用を評価した。健常被験者を対象に手内筋3箇所から筋電図を記録し、正中・尺骨神経刺激によるF波を記録した。またF波の刺激に先行し一次運動野(M1)に経頭蓋磁気刺激(TMS)を与え、その影響を評価した。F波は末梢神経単独刺激に比し正中尺骨神経同時刺激で振幅の増大を認めたが、M1の先行刺激により更に振幅が促通した。このことからAPB-FDIで観察された相互作用を生じる神経回路は錐体路と異なる配置であり錐体路の興奮で影響されることが示された。また手内筋群のF波は筋間で相関が乏しく脊髄内での手内筋群間の相互作用が健常者安静状態では非常に乏しいことが示された。一方MEPは筋間で弱~中等度の相関係数を認め、M1内で手指の協調運動、分離運動が調節されている状況に対応する知見が得られたと考えている。これらの結果を基に3箇所のMEP、F波振幅を規定する数理モデルを共分散構造分析を用いてモデル化を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は右手内筋3箇所より安静条件で記録し、正中神経、尺骨神経より刺激を行った。結果として、正中神経、尺骨神経単独刺激条件のF波に比し、同時刺激での短母指外転筋、第一背側骨間筋の振幅は増大したが、小指外転筋は増大を示さなかった。短母指外転筋、第一背側骨間筋の相互の促通はISI 10 msの間隔を開けると効果が減弱するものの促通傾向が観察され、母指-示指間の促通性相互作用が存在し、相互作用の時間窓があることが示された。一方母指-小指間ではそのような相互作用がなく、母指-示指は手指の中でもつまみ動作など非常に緊密に動作するため母指-小指間にない機能連関が存在することが示唆された。 脊髄とM1の相互作用についてはF波は末梢神経単独刺激に比し同時刺激で振幅の増大を認めたが、M1の先行刺激により更に振幅が促通した。すなわち脊髄内の手内筋群の相互作用と錐体路の影響は異なる神経基盤を有することが示唆され今後につながる知見を得ることができた。 またMEP振幅は筋群間で弱いながら相関が観察された一方でF波では無相関に近い相関係数であった。これは手内筋群の協同運動の調節は主にM1内で処理され、脊髄内では手内筋の相互作用は小さい状況が推察された。この結果を受けてMEP振幅とF波振幅を用いて共分散構造分析による神経基盤のモデル化を試みている。解析途中ではあるが、潜在変数としてMEPの振幅を規定するM1、MEP振幅を受けてF波の振幅を規定する脊髄の変数がモデルとして成立する結果が得られ、解剖学的な関係がMEP、F波振幅の決定に関わっていることがモデル上も示唆された。現在モデルの精度がより高まるよう調整を継続している。これらの研究を通じてM1から脊髄がMEP、F波の応答を規定する神経基盤をモデル化し、今後手指巧緻性を規定する特徴量が明らかになる基礎データを得つつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は今年度得られた手内筋群のM1、脊髄興奮性の調整を脳波の同時記録と解析を通じて進めて行く。頭皮上32箇所に電極を配置し、経頭蓋200試行記録する。TMSのみで得られるMEP、F波のみで得られるF波、またTMSを先行させMEPとF波を計測する条件を設定する。脳波解析はTMSの時刻を基準に1秒間刺激前区間を切り出し、刺激直前の脳状態を評価対象とする。解析法は周波数分析を主に用い、Θ~γ帯域まで各帯域を対象としてパワー値や位相を指標として取り出す。また電極間の結合度も解析対象として検討する。解析は、MEP、F波の手内筋群の振幅、手内筋群間の相関と脳波周期活動の関連について重回帰分析を中心として進めて行く。我々は先行研究にてα~β帯域が左M1周辺でパワー値が高い際にMEP振幅が高くなる結果を報告した。本研究で同様の結果が生じるのか仮説と異なる結果が得られるのか評価し考察を加える。 続いて上記研究を基に脳波で評価される大脳皮質の状態をリアルタイムで評価し、適切なタイミングでM1を刺激すること(脳状態依存刺激)で手内筋群の振幅の増減を制御できるか試みる。また前半の研究にて手内筋群の共同運動、分離運動が生じやすい脳状態を明らかにできれば、その脳状態依存刺激で手内筋群の共同運動、分離運動の誘発を試みる。計測する脳波32ch、筋電図は前段階と同様とする。脳波記録は外部コンピュータにリアルタイムで出力し、外部コンピュータ内で高速に周波数分析を通じて各周波数帯域のパワー値、位相など算出し、設定した条件を満たした場合に直ちにTMS刺激を送ることができる。本実験系では1人につき100~200回の刺激と計測を行い、手内筋群の振幅の増大や共同運動、分離運動を生じるための刺激条件を調整、見出していく。
|
Causes of Carryover |
予定よりも被験者代を他の研究費で賄うことができ、また学会発表が近隣の地域の学会で発表したため交通費がかからなかった。 論文を作成中で投稿関連費用は次年度に入ることとなった。
|