2021 Fiscal Year Research-status Report
体外式膜型人工肺モデルラットにおける骨格筋収縮時の酸素・循環動態の解明
Project/Area Number |
21K11177
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Research Institution | Niigata University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
堀田 一樹 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 講師 (30791248)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ECMO / 骨格筋 / 微小血管 / 酸素動態 / リン光クエンチング |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景】体外式膜型人工肺(ECMO)は,新型コロナウィルス感染症による肺炎を始めとする,重度の循環・呼吸不全を有する患者の救命措置として行われている.ECMO 管理中から早期離床や電気刺激治療により骨格筋機能を維持することが,要介護状態の回避やQOL の改善につながると思われる.骨格筋は収縮時に酸素供給が激増するが,酸素供給を支えるメカニズムとして筋毛細血管における酸素供給が関与している.しかしながら,ECMO管理中に骨格筋が正常に機能しているか否かは不明である.【目的】本研究では新たにECMOモデルラットを作製し,電気刺激による骨格筋収縮時の酸素動態を正常ラットと比較することで,ECMO 中の筋収縮時の生体応答の解明に取り組む.【方法】雄性Sprague DawleyラットをECMO群とSham群に分類した.ECMO群に対しては,右頸静脈に脱血管を,左頸動脈に送血管をそれぞれ留置し,ポンプとECMOによって体外循環と酸素化をおこなった.右前脛骨筋(TA)に留置した電極を介して,5 V,2 ms,1Hz,180秒間の刺激を実施した.張力波形からrate of force development (RFD),peak値を算出した.張力がPeakに到達した後の最大弛緩速度(maximum relaxation rate; MRR)を算出した.酸素プローブ(PdG4)をTAに投与し,りん光クエンチング法により,TA間質の酸素分圧(pO2is)を筋張力と同時にリアルタイムで計測した.【結果】ECMO群の動脈血酸素分圧はShamと差を認めなかったが,ヘモグロビン値が有意に低値を示した.ECMO中の筋張力をみると,ECMO群のRFDおよびPeak値はSham群と差を認めなかったが,ECMO群のMRRはShamと比べて有意に低値を示した.収縮中のpO2isはShamと比べてECMO群で有意に低値を示した.【結論】ECMOはラット骨格筋の収縮能には影響しないが,弛緩速度を減少した.その背景には,ECMOの血液希釈に伴う貧血や,収縮筋の低酸素が関係していることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度に,運動負荷装置を導入し,電気刺激による正常ラット前脛骨筋の発揮張力の計測を実施することが当初の目標であった.実績として,重症肺障害でも応用可能な運動負荷として,ラット麻酔下で電気刺激による最大下の強度の筋収縮(1 Hz,パルス幅2 ms,3分間)を誘発し,正常ラットでは張力が一定となる強度で筋収縮が可能となった.したがって,当初の計画通りにおおむね進んでいると思われる. 加えて,以下の手順でECMOモデル動物の作成に取り組んだ.ラット頸静脈に留置したカテーテルから脱血し,小動物用の体外式膜型人工肺(泉工医科工業)で酸素化した後,頸動脈に送血することでECMO モデルラットを作製した. 2022年度に予定していたECMOモデルラットの筋収縮時の酸素・血流動態の計測についても2021年度から着手している.ECMOは高酸素血症を誘発するものの,Shamと比較すると筋局所の低酸素を誘導することが明らかとなった.導入した骨格筋電気刺激装置およびストレインゲージを用いて,ECMOモデルラットの骨格筋が発揮する張力を計測した結果,筋が弛緩する速度が低下することが明らかとなった.以上のことから,本研究はおおむね順調に進展しており,予想していた以上のECMOによる骨格筋への悪影響が示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度より,研究責任者の所属機関が変更となった.そのため,新しい所属機関において,実験環境のセットアップを開始する.麻酔機器,体外循環,人工呼吸器,手術設備などのセットアップには,約2ヶ月程度の期間を要すると予想される.そのため,今後の実験計画の修正などを検討する必要がある.血流計測に必要な顕微鏡については,前所属機関の共焦点レーザー顕微鏡を共用機器として使用するための申請をする.同時に,顕微鏡を用いた血流イメージングの代替手段として,蛍光ビーズと蛍光強度測定による血流評価に方針を切り替えることも検討していく.2021年度に得られた結果から,ECMO管理中に運動時の酸素供給の障害が示唆された.その背景には,活性酸素種および微小血管機能の障害が関与している可能性がある.そのため,既にサンプリング済みの血液および骨格筋サンプルの生化学的な解析を進める. 前所属機関の研究協力者とは,オンラインの会議を通じた研究の進捗状況の共有および問題点の解決へ向けた協議をする.本研究結果は,生理学の国際誌であるJournal of Physiologyに投稿する.
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Research Products
(12 results)