2022 Fiscal Year Research-status Report
呼吸性視覚フィードバックによる呼吸リハビリテーションの開発に向けた生理学的検討
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21K11226
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
泉崎 雅彦 昭和大学, 医学部, 教授 (20398697)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 呼吸運動 / 視覚 / 体性感覚 / ミスマッチ / フィードバック |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)での呼吸困難は、QOL低下の最大の要因である。呼吸困難は痛みと同様に不快な感覚であり、実際、両者に多くの神経学的共通点がある。中でも呼吸困難と「幻肢痛」は、運動出力と体性感覚フィードバックのミスマッチという共通の機序を持つ。幻肢痛の鏡療法では、失われた四肢体性感覚を「四肢性視覚フィードバック」で代償し、痛みを緩和する。本研究の目的は、呼吸困難の緩和を目指す「呼吸性視覚フィードバック」による呼吸リハビリテーションの開発に向け、その基礎的知見を得ることである。2022年度は、呼吸リズムと視覚情報の統合が身体認知の再構成に寄与しているのか、健常成人38名において、座位での「ラバーハンド錯覚現象」を用いて評価した。体幹前面の左手はスクリーンで視野外とし、模擬左手を視野内の体幹前面に設置した。呼吸運動の視覚情報として、Respiratory induction plethysmographyの出力を利用して呼吸リズムに同期して上下に動く模擬左手の視覚情報を与え、「視野外にある自身の左手の位置錯覚」と「模擬左手が自身左手と感じる自己所有錯覚」を評価した。その結果、位置錯覚には影響を与えなかったが、自己所有錯覚を増大させた。以上から、呼吸性視覚情報である呼吸リズムと視覚情報の統合が身体認知の再構成に寄与することが示唆された。この結果について論文化し、公表した。今後は、呼吸運動の視覚情報の呼吸調節系と呼吸感覚への作用の検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
呼吸リズムに同期して動く模擬左手の視覚情報がラバーハンド錯覚現象に影響を与えることを明らかにし、原著論文として報告した(Kosuge M, Honma M, Masaoka Y, Kosuge S, Nakayama M, Kamijo S, Shikama Y, Izumizaki M. Respiratory rhythm affects recalibration of body ownership. Sci Rep. 2023 Jan 17;13(1):920. doi: 10.1038/s41598-023-28158-2.)。このことは、呼吸運動の視覚情報が単純な視覚情報として処理されず、呼吸運動出力のフィードバックとしての機能を発揮しうることが示唆された。一方、Respiratory induction plethysmographyの出力を利用して、ディスプレイ上に呼吸に同期したコンピューターグラフィックを提示するソフトウェアには課題があり、改良を継続しているため、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着きを見せていることから、Respiratory induction plethysmographyの出力だけでなく、感染対策に十分配慮しながら呼吸代謝測定装置(現有装置)の利用を開始する。呼吸代謝測定装置からの呼吸出力を用いてコンピューターグラフィックを作成し、呼吸運動の視覚情報の呼吸調節系と呼吸感覚への作用の検討を行う。コンピューターグラフィックの種類と動きの提示パターンの改良を進め、呼吸代謝測定装置で得られる生体情報を用い、より精緻な分析を行う。
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Causes of Carryover |
当初予定していた学会参加費、論文校正費、論文投稿費として使用しなかったため、次年度使用額が生じた。2023年度に学会参加費、論文校正費、論文投稿費(オープンアクセス)、被験者謝金、消耗品購入費として使用する予定である。
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