2021 Fiscal Year Research-status Report
吻側延髄腹内側部に連絡する新経路が及ぼす口腔顔面慢性疼痛への役割
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21K11256
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Research Institution | Osaka University of Human Sciences |
Principal Investigator |
杉生 真一 大阪人間科学大学, 保健医療学部, 教授 (90397688)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 三叉神経 / 吻側延髄腹内側部 / c-Fos / ERK / セロトニン / GABA |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔顔面領域の一次中継核である三叉神経脊髄路核中間亜核(Vi)と三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)との移行部(Vi/Vc)と下行性疼痛調節系の吻側延髄腹内側部(RVM)には相互連絡路(RVMとVi/Vcの相互連絡路)が存在することから、神経障害性疼痛時にこれらの連絡路の働きを調べるためにRVMとVi/Vcの相互連絡路の構成要素であるRVM、ViとVcが侵害情報受容後にどのような疼痛制御を行っているのかを、免疫組織化学法を用いて調べた。口腔顔面領域の炎症性慢性疼痛モデルにおいては、RVMが下行性に一次中継核であるVi/Vcのニューロン活動を増強させ、痛覚過敏を引き起こすことが知られているが、神経障害性疼痛時のRVMとVi/Vcの相互連絡路の役割は解明されていない。RVMとVi/Vcは慢性疼痛の発現に関与し、様々な病態状況により変化する可能性があるため、神経損傷後の経時的な疼痛関連行動(機械的疼痛閾値)の変化を調べた結果、神経障害性疼痛時が炎症性慢性疼痛時よりも疼痛の亢進があることを明らかにした。 また、これまでにVi/Vcは、深部組織の痛みの処理、侵害受容性の口腔顔面痛の統合、および持続性の口腔顔面痛の発症に重要な役割を果たすとの報告(K Ren.and R Dubner. Int Rev Neurobiol.2011; 97:207-225.)があるが、Vi/VcとRVMには、疼痛制御に関して多様な機能を果たしている多様な細胞が集まっているため、神経障害性疼痛時でどの細胞が痛みを促進させるのか、抑制させるのかは未だ明確ではない。本研究ではRVM内のセロトニン(5-HT)、γアミノ酪酸(GABA)などといった生理活性物質を有するニューロンの局在や分布度を調べ、RVMとVcがどのような疼痛制御を行うかを調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
〈動物の侵害受容動態に関するモデル動物の作成〉 下顎の智歯抜歯後、臨床時に生じる可能性がある症例モデルとして、ラットの三叉神経第3枝の枝(下歯槽神経)を切断した神経損傷モデルと下歯槽神経を露出させ切断しない神経非損傷モデル(炎症性慢性疼痛モデル)の作成を行った。神経損傷後の経時的な疼痛関連行動(機械的疼痛閾値)の変化を調べるため、手術後1ヶ月間隔週、両モデルの三叉神経第2枝支配領域の口髭部にてフォン・フライテストを行い、機械的疼痛閾値を定量した。その結果、両モデルの経時的な機械的疼痛閾値の差異が明らかとなり、本神経損傷モデルを神経障害性疼痛モデルとして確立することができた。 〈脳の細胞の表現型および活動レベルに関する研究〉 神経損傷モデルで、機械的疼痛閾値の変化が顕著に認められた術後2週間後で、神経損傷モデルと神経非損傷モデルを用い、起炎材投与後に灌流固定を行い、免疫組織化学法にてc-Fos発現とERK発現の定量を行った。神経損傷モデルでは、神経非損傷モデルに比べ、Vc の2枝領域とRVMにおいてc-Fos発現とERK発現が多く認められた。これらの結果から、神経障害性疼痛時は炎症性慢性疼痛時に比べ、脳内活動部位での侵害受容ニューロンの活性レベルの亢進を認めた。また両モデルでの脳内活動部位の細胞表現型の差異を明らかにするため、c-Fos発現またはERK発現と生理活性物質として5-HTとGABAの発現との共存を調べた。結果、神経損傷モデルは、神経非損傷モデルに比べ、RVM においてc-Fosと5-HTの共存、c-FosとGABAの共存が多く認められた。またRVM においてERKと5-HTの共存、ERKとGABAの共存が多く認められた。これらの結果から、神経障害性疼痛時の疼痛亢進とRVMの5-HTニューロンとGABAニューロンの活動の亢進とには関連があることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、神経損傷モデルと神経非損傷モデルの脳内活動部位での生理活性物質の発現を詳細に調べる。c-FosやERKがどのような生理活性物質と共存しているかを両モデルで比較し、RVM、VcとVi/Vcにトレサーの注入を行い脳のシステム(神経回路)を明らかにする。神経損傷モデルのRVMの5-HT作動性ニューロンが入力するVi/Vcへターゲットトキシンとしてanti-Serotonin transporter-Saporin (SERT-Sap; ATS, San Diego, CA, USA)を注入し、RVM内の5-HT作動性ニューロンを、逆行性に削除したモデル(神経損傷SERT-Sap)と、対照モデルとして、ブランクサポリン(Bl-Sap)を注入したモデル(神経損傷Bl-Sap)を作成する。作成後、機械的疼痛閾値の変化を調べ、両モデルの機械的疼痛閾値の変化が顕著に認められた時期で、RVMへ逆行性トレーサー(FG)を注入する。その後通法に従い、Vi/VcのFGとFosおよび生理活性物質の二重染色もしくは三重染色を行い、RVMとVi/Vcの相互連絡路の侵害受容後の上記に記載した各種生理活性物質を含む投射ニューロンの割合を比較する。 これにより、RVMとVi/Vcの相互連絡路の神経障害性疼痛時のニューロンの活動性と働きの全容が解明できる。さらに、末梢神経損傷によりグリアの活性化が誘導され、活性化グリアが二次ニューロンの興奮性を変化させるため、RVMとVi/Vcでの、ERKとアストログリアおよび、ERKとミクログリアの二重染色をそれぞれ行い、神経障害性疼痛時のグリアが及ぼすRVMとVi/Vcの相互連絡路への影響を検証する。RVMとVi/Vcの相互連絡路の状況に応じた侵害刺激に対する働きが解明できれば、慢性疼痛の解明の一助となる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により旅費の支出がなかったため次年度使用額が生じた。コロナの状況を見ながら使用計画に基づき適切に使用する計画である。
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Research Products
(4 results)