2022 Fiscal Year Research-status Report
運動が鎮痛に働く脳メカニズム:恐怖回避思考からの脱却
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21K11268
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 特別研究員 (20204612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 名誉教授 (00135691)
田島 文博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00227076)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / 運動による疼痛抑制 / マウス / 自発運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動による疼痛抑制効果(exercise-induced hypoalgesia: EIH)の脳メカニズムの解明を目的とする本研究課題において、我々は坐骨神経部分損傷(PSL)マウス(神経障害性疼痛モデルマウス)に自発運動(VE)を行わせてmesocortico-limbic systemを構成する各神経核の応答に焦点を当て検討を続けている。 2022年度は、昨年度からの課題を継続して検討するとともに、研究成果の国際学術誌への投稿・受理を目的に研究を進めた。すなわち腹側海馬(vHIP)とEIH効果との関係について検討を行い、①PSLはvHIPにおけるglutamatergic(Glu)ニューロンの活性化を有意に高めたが、VEはこの活性化を抑制すること、②扁桃体外側基底核(BLA)に逆行性トレーサー(RBR)を注入したPSL-マウスのvHIPには、多くのFosB陽性RBR陽性ニューロンが観察されたことにより、VEはBLAへ投射するvHIP-Gluニューロンの活性化を抑制すること、さらに③VEによるGluニューロンの抑制メカニズムについて抑制性介在ニューロンに焦点を当て検討したところ、VEはvHIPにおけるparvalbumin陽性およびsomatostatin陽性介在ニューロンの活性化を有意に高めることが分かった。これらの実験結果は、VEはvHIPに局在する抑制性介在ニューロンの活性化を介してvHIP-Gluニューロンを抑制し、これがEIH効果を生み出すメカニズムに一つとなることを示唆し、これらの研究成果は、国際学術誌に公表することができた。このように2022年度はVEに伴うvHIP-Gluニューロンの抑制性介在ニューロンの活性化を介した抑制がBLAニューロンを抑制することにより、扁桃体中心核GABAニューロンの抑制を引き起こすという非常に興味深い研究成果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、3つの招待講演「第44回日本疼痛学会シンポジウム」、「第59回日本リハビリテーション医学会・シンポジウム」および「第26回 日本ペインリハビリテーション学会学術大会・シンポジウム」において、我々の最新の研究成果を発表することができた。このことは、本研究課題が多くの痛み研究者やリハビリテーション研究者に注目されていることを意味している。さらに昨年度はこれまでの研究成果をまとめた原著論文が国際学術誌であるScientific Reportsに掲載された(Minami K, Kami K, Nishimura Y, Kawanishi M, Imashiro K, Kami T, Habata S, Senba E, Umemoto Y, Tajima F. “Voluntary running-induced activation of ventral hippocampal GABAergic interneurons contributes to exercise-induced hypoalgesia in neuropathic pain model mice.” Scientific Reports. 2023)。このことは本研究課題が順調に発展していることを示している。このようにmesocortico-limbic systemに焦点を当てたEIH効果の脳メカニズムを明らかにする取り組みは、疼痛学分野における重要課題の一つであると言っても過言ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、本研究の遂行過程においてEIH効果には扁桃体機能の改善を介した恐怖記憶の消去が重要な役割を担っていることを示唆する実験結果を得た。そこで現在は、PSL-RunnerおよびPSL-Sedentaryマウスに対する恐怖刺激の影響に関する実験を進めており、これに関しては非常に興味深い結果が得られている。すなわち、EIH効果の発現には腹側被蓋野(VTA)におけるドパミン(DA)ニューロンの活性化を必要とするが、PSL-Runnerマウスに電気ショックによる恐怖刺激を与えると、EIH効果が消失するとともに、VTA-DAニューロンの活性化が抑制されていることが分かった。これらの結果は、EIH効果の発現にはVTA-DAニューロンの活性化が必要であることを強調することに加えて、恐怖刺激はEIH効果を打ち消す強力な刺激となることを示唆している。今後は、恐怖刺激がEIH効果を打ち消す脳メカニズムについて行動実験、疼痛評価、免疫組織化学染色、逆行性トレーサーと免疫染色とのコンビネーションなどの実験手法を駆使して明らかにすることを予定している。
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Causes of Carryover |
2022年度中に予定していた学会や研究会での発表が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりオンライン開催などに変更されたことをおもな理由として、次年度使用額が生じた。次年度研究費の使用計画としては、試薬やマウスなどの研究消耗品費、学会旅費、英文校正費や論文掲載費等を予定している。
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