2023 Fiscal Year Research-status Report
運動が鎮痛に働く脳メカニズム:恐怖回避思考からの脱却
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21K11268
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 特別研究員 (20204612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 名誉教授 (00135691)
田島 文博 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (00227076)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 運動による疼痛抑制 / 神経障害性疼痛 / 腹側被蓋野 / 扁桃体 / 自発運動 / 鎮痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は,坐骨神経部分損傷(PSL)マウス(神経障害性疼痛(NPP)モデルマウス)に恐怖刺激(FS)を与え,疼痛行動,自発運動(VR)量,腹側被蓋野(VTA)-ドパミンニューロンの活性化の変化に焦点を当て検討した.その結果,PSL-VR群の運動量はPSLにより一端減少し,その後漸増したのに対して,PSL/FS-VR群の運動量はPSL後10日目までは増加したが,それ以降は減少傾向に転じた。PSL-VR群の疼痛閾値は上昇し疼痛抑制効果を示したが,PSL/FS-VR群では疼痛閾値の改善を認めなかった.恐怖刺激の想起により生じるFreezing出現率は,PSL/FS-運動群が25.4%,PSL/FS-非運動群では37.8 % となり,VRの有無にかかわらずFreezingの残存が示された.これらの研究成果は,第45回日本疼痛学会・優秀演題口演(基礎)(筆頭演者:上拓馬)に選出された. さらに私達のこれまでのexercise-induced hypoalgesia(EIH)研究成果を総説として仕上げて国際学術誌に公表した(Senba E, Kami K.Exercise therapy for chronic pain: How does exercise change the limbic brain function? Neurobiology of Pain, 100143-100143 2023).このように2023年度は,NPP時における恐怖体験は,EIH効果を打ち消すリスクファクターとなる可能性を示唆する興味深い研究結果を得ることができ,さらに本年度に発表した総説を踏まえ,今後の私達のEIH研究の展開についても考察することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度に開催された「第45回日本疼痛学会」では,私達の研究グループが発表した2つの演題,「自発運動による腹側海馬の抑制性介在ニューロン活性化は運動による疼痛抑制に関与する:筆頭演者:上拓馬」と「運動による疼痛抑制に及ぼすオレキシンの影響:筆頭演者:羽端章悟」が,「優秀演題口演(基礎) 」に選出された.また,第7回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会では,羽端章悟が発表した「運動による疼痛抑制に対する下行性疼痛抑制系の関与」が「Young Investigator Award・最優秀賞」を受賞した.このように私達が取り組むEIH研究は,痛み研究者やリハビリテーション研究者の科学コミュニティにおいて注目されていることを意味している.さらに2022年度にInternational Journal of Molecular Sciences(IJMS)に発表した私達の総説「Kami K, Tajima F, Senba E. Brain Mechanisms of Exercise-Induced Hypoalgesia: To Find a Way Out from “Fear-Avoidance Belief”」が「The top downloaded papers of IJMS in 2022」に選出された. これらの事実は,私達が取り組むEIH研究が科学コミュニティにおいて高く評価され,順調に発展していることを示している。このようにmesocortico-limbic systemに焦点を当てたEIH効果の脳メカニズムを解明する取り組みは、疼痛学分野における重要課題の一つであると言っても過言ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として,本研究の遂行過程においてNPPモデルマウスに自発運動(VR)に加えて恐怖刺激(FS)を与えたところ, PSL-VR群の運動量はPSLにより一端減少し,その後漸増したのに対して,PSL/FS-VR群の運動量はPSL後10日目までは増加したが,それ以降は減少傾向に転じた.PSL-VR群の疼痛閾値は上昇し疼痛抑制効果を示したが,PSL/FS-VR群では疼痛閾値の改善を認めなかった.さらにPSL-VR群のVTAでは,活性化DAニューロン数が有意に増加するが,PSL/FS-VR群のVTA-DAニューロンの活性化は減弱することも分かった.これらの研究成果を踏まえて現在は,マウスの匹数を増やして上記の実験結果の再現性を確認するとともに,恐怖刺激の想起により活性化が高まることが知られている扁桃体中心核GABAニューロンに焦点を当て,PSL-VR群とPSL/FS-VR群におけるそれらの活性化の相違についても比較・検討を進めているところである.2024年度は,EIH効果と恐怖との関係に関連する実験結果を論文にまとめ,国際誌に投稿することを予定している.
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Causes of Carryover |
2021年度~2023年度中に予定していた学会や研究会での発表が、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響によりオンライン開催などに変更されたことをおもな理由として、次年度使用額が生じた。次年度研究費の使用計画としては、試薬やマウスなどの研究消耗品費、学会旅費、英文校正費や論文掲載費等を予定している。
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