2022 Fiscal Year Research-status Report
空間注意を伴う運動により増大する脳活動領域:頭蓋内電極を用いた検討
Project/Area Number |
21K11271
|
Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
文室 知之 大分大学, 医学部, 准教授 (30727079)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松橋 眞生 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (40456885)
萩原 綱一 国際医療福祉大学, 福岡看護学部, 准教授 (00585888)
赤松 直樹 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (10299612)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 脳波 / 頭蓋内電極 / 運動 / 空間注意 / 事象関連脱同期 / ブレイン・マシン・インターフェイス |
Outline of Annual Research Achievements |
随意運動に先行して脳波中に発生する事象関連脱同期(ERD)は、近年ではブレイン・マシン・インターフェイスにおいて運動企図を検知するための手段として応用が進められている。過去に我々は健常者を対象に頭皮上電極を用いた研究で、α~β波帯域のERDは運動時の空間注意条件により分布や強度が変化することを示した。本研究では、空間注意条件により変化するERDの出現部位や機能特性を明らかにするため、術前評価目的で頭蓋内電極を慢性留置したてんかん患者の協力を得て脳波計測中の運動課題を実施した。 被験者はベッド上に座位で前方のモニターを見ながら15-20秒に1回のペースで右手関節伸展運動を繰り返し行った。モニターには時計回りに3秒で1周する視覚指標が表示され、被験者は各運動後に手元のトラックボールを操作してモニター内のカーソルを移動させ、運動開始時点の指標位置を答えた。計測後のデータ解析では、運動開始時点の指標位置(左半視野または右半視野)によって試行を二群に分け、それぞれの脳波について運動開始前3秒間の時間周波数解析を行った。 これまでに計14人の患者を対象に計測を行った。14人のうち7人は頭蓋内電極が中心溝近傍の前頭葉や頭頂葉皮質を含む領域に留置され、運動開始前に明瞭なα~β波帯域のERDが出現した。この7人のうち6人で、運動開始時点の指標位置が左半視野の試行では(指標位置が右半視野の試行に比して)ERDが運動開始時点の0.5-1.0秒前から先行・増大する傾向を示した。他の7人のうち5人は、時間周波数解析が可能な頭蓋内電極が前頭葉のうち前頭前野と考えられる領域や、側頭葉の外側・底面、後頭葉の内側に限定された。これらの部位からは明瞭なERDが出現しない、あるいはERDが出現した場合でも指標位置の左右視野間でERDの分布や強度に明らかな差はみられなかった。残る2人は運動課題の遂行不良や波形中のてんかん性放電の過多により解析対象から除外した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに計測された脳波の解析結果より、随意運動に伴って発生するERDは運動開始時点の視覚指標の位置および移動方向の影響を受けて変化することが示された。これは事前に健常者を対象とした予備的計測から想定した仮説と概ね一致した。また、頭蓋内脳波と神経画像検査より、ERDの変化は主に中心溝近傍の前頭葉から頭頂葉に留置された電極で観察された。これらの結果から、少なくとも上述の部位を含む脳領域において空間注意と運動準備を統合する情報処理が行われるとともに、注意条件に応じて短時間で脳賦活領域が変化することを示唆した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までにほぼ予定通りの症例数から計測を行ったが、頭蓋内電極の留置位置により明瞭なERDがみられなかった症例や、てんかん性放電の混入により電極の解析範囲が限られた症例も含まれる。このため、残りの研究期間内においても引き続き計測の機会を得てデータを蓄積し、空間注意と運動準備の統合に関わる脳領域の解明を進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、解析用コンピュータの購入が遅れたこと、データ計測や学会発表などで遠隔地へ移動する機会が想定より少なく、旅費として使用した金額が予定額を下回ったことが原因である。次年度の使途として、解析用コンピュータの購入、追加のデータ計測や学会参加に伴う移動・宿泊の他、解析用および視覚提示用ソフトウェアのライセンス更新、論文の校正・投稿に際しての使用を計画している。
|