2021 Fiscal Year Research-status Report
嚥下食への視覚的介入が摂食者の心理や身体に及ぼす影響について
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21K11280
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Research Institution | Kyushu Women's University |
Principal Investigator |
増田 渉 九州女子大学, 家政学部, 准教授 (80295865)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 美恵 九州女子大学, 家政学部, 准教授 (10813727)
花沢 明俊 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (10280588)
吉野 賢一 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (90201029)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 嚥下食 / 普通食 / 嗜好 / 視線滞留時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
嚥下調整食・嚥下訓練食品(以下、嚥下食)には摂食嚥下機能の障害レベルに応じて、ソフト食、ミキサー食、ペースト食、ムース食、そしてゼリー食がある。ソフト食とゼリー食は、普通食を一度粉砕したものに固形化補助剤を加えて再整形することで視覚的に普通食に近づけることが可能であるが、その調理過程が煩雑である。一方、ミキサー食、ペースト食、ムース食は、再整形する工程はないが、もとの料理の形態を全く留めておらず、視覚的に普通食とは程遠いものとなる。これまで嚥下食は、それに含まれる栄養学的側面、美味しさに関わる味覚・嗅覚的側面、そして摂食嚥下障害者がいかに誤嚥・窒息せずスムーズに摂食嚥下できるかといった形状や物性等の機能的側面を中心に研究されてきた。一方、嚥下食、特に液状のものは普通食との間の視覚的な隔たりにより、嫌悪感や拒否反応を示す者が存在するにもかかわらず、これまで視覚的側面についてはほとんど研究されていない。そこで本研究では、嚥下食への視覚的介入が、摂食者の心理や身体にどのような影響を及ぼすのかについて客観と主観の両面から評価し、摂食嚥下障害者に対する新たな摂食嚥下リハビリテーション手段開発のための基盤構築を目指す。今年度申請者らは、まず基礎的研究段階として、普通食とそのペースト食を見た時の視線動向と主観的意識との関連について検討した。視線動向測定機器を装着した被験者の前に普通食とその嚥下食を並べて置き、それを10秒間自由に見てもらう測定時間と、その後10秒間の休憩時間をおく試行を連続して3回繰り返した。3回のそれぞれの食に視線滞留した時間を計測・比較した結果、ペースト食に比べ普通食への視線滞留時間の方が有意に長かった。そして、試行後の主観的意識調査では、普通食を長く注視した被験者の約90%が「美味しそう」と回答した。このことから、視線滞留時間と主観的意識の間に正の関連が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、普通食とそのペースト食を見た時の視線動向と主観的意識との関連について検討する際、視線動向だけでなく近赤外分光法(fNIRS)による脳活動や身体的変化(心拍数、唾液分泌など)も同時に計測し、これらと主観的意識との関連についても検討する予定であった。しかし、視線動向測定機器とfNIRSセンサーの同時装着による被験者へのストレス増や、心拍数測定機器と覚醒下での唾液採取機器の準備に時間を要したため、今年度内に実験を実施することができなかったのが主たる原因である。しかしこのような状況下にあっても、視線滞留時間と主観的意識の間に正の関連が認められたことは、今後の実験において非常に意義のある結果が得られたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは初年度に実施できなかった、普通食とそのペースト食を見た時の視線動向と脳活動の同時測定に再度挑戦する。もしこれが困難であった場合、それぞれの測定を単独で行い、主観的意識との関連について検討する。また、心拍数測定機器と覚醒下での唾液採取機器の作成・購入を早急に行い、これらも同時装着することで、これらと主観的意識との関連についても検討する。一方で、モデル普通食の3D立体映像を、普通食より作成したペースト食へ組み込む技術も順次開発し、その技術を用いた新たな実験ステージにも進めたい。
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Causes of Carryover |
心拍数測定機器と覚醒下での唾液採取機器の作成・購入に至らなかったため、そのための予算が余り、次年度使用が生じた。次年度にこれらの作成・購入に使用する。
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