2022 Fiscal Year Research-status Report
運動と9Z,11E-CLA摂取の併用は白色脂肪組織のベージュ化を誘導・促進するか
Project/Area Number |
21K11342
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
櫻井 拓也 杏林大学, 医学部, 講師 (20353477)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福冨 俊之 杏林大学, 医学部, 助教 (30439187)
山本 幸子 杏林大学, 医学部, 講師 (70434719)
加藤 久詞 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究員 (30780275)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 褐色脂肪組織 / ベージュ化 / 運動トレーニング / 肥満 / 共役リノール酸 / チトクローム |
Outline of Annual Research Achievements |
白色脂肪組織(WAT)内に誘導されるベージュ細胞は、エネルギーを消費して熱産生を行うため、肥満・生活習慣病の予防・改善の鍵として注目されている。しかし、ヒトWAT では運動トレーニング(TR)単独でベージュ化は起こらないとする報告がほとんどである。これらの先行研究から、申請者は「運動によるWATのベージュ化促進のために、他の条件を加えるのはどうか?」という着想を持つに至った。この着想をもとに検討を行ったところ、共役リノール酸(CLA)のひとつである9Z,11E-CLAによって3T3-L1脂肪細胞のベージュ細胞への分化が大きく促進されるという結果が得られた。この結果をもとに2022年度は以下の検討を行った。 (1)9Z,11E-CLAによるベージュ化促進のメカニズム 9Z,11E-CLAとその異性体である10E, 12Z-CLAもしくは両者を添加した場合の3T3-L1細胞における遺伝子発現の変化をDNAアレイで網羅的に解析した。その結果、10E, 12Z-CLA添加によってfatty acid desaturase 2などのベージュ化に重要であると考えられる分子の遺伝子発現が増加したが、これらの遺伝子発現の増加は9Z,11E-CLA添加では観察されなかった。 (2) マウスの褐色脂肪組織に対する肥満・運動の影響 脂肪含量60%の高脂肪食(HFD)を4ヵ月間摂取させた肥満マウス、HFD摂取と回転ケージによるTRを施行したTRマウスならびに対照マウスの褐色脂肪組織(BAT)における遺伝子発現の差異を検討した。対照マウスのBATに比べて肥満マウスのBATでは、チトクローム(Cyp)2e1、Cyp2b10ならびにカルシウムポンプ遺伝子の発現が大きく減少した。一方、TRは肥満によるCyp2e1とCyp2b10遺伝子の発現低下を増強させたが、カルシウムポンプ遺伝子の発現低下を抑制した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の検討では、9Z,11E-CLAを含む、いくつかの脂肪酸についてベージュ化に対する影響を検討した。その結果、同じCLAの異性体である10E,12Z-CLAではベージュ化抑制傾向が観察され、9Z,11E-CLAと10E,12Z-CLAを同時に加えると9Z,11E-CLAのベージュ化促進効果が失われた。これらの結果から、脂肪酸の中でも特に、9Z,11E-CLAがベージュ化促進効果を持つことが推測された。2022年度は、CLAによるベージュ化調節の詳細なメカニズムを検討するためDNAアレイによる遺伝子発現の網羅的解析を行った。その結果、10E,12Z-CLAの添加によってベージュ化に重要であると考えられる分子の遺伝子発現が増加したが、これらの遺伝子発現の増加は9Z,11E-CLA添加では観察されなかった。さらに、HFD摂取により肥満したマウスのBATでは、Cyp2e1とCyp2b10遺伝子の発現が大きく減少し、運動によってCyp2e1とCyp2b10遺伝子発現の低下はさらに増強された。一方、肥満マウスのBATで観察されたカルシウムポンプ遺伝子の発現低下は運動によって抑制された。 上記の結果から、9Z,11E-CLAは遺伝子の発現の変化というよりもタンパク質の翻訳後修飾などによってベージュ化を促進している可能性が考えられた。一方、10E,12Z-CLAが遺伝子の発現変化をもたらすがベージュ化を抑制する理由については今後検討が必要である。また、肥満によるBATの機能低下を引き起こす可能性がある原因分子としてCyp2e1とCyp2b10が同定された。今後、ベージュ化のキー因子になりうるかも含めてさらに検討を進めていく予定である。 以上の結果は、「研究の目的」の達成に有用な知見であることから研究の達成度はおおむね順調であると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)運動・9Z,11E-CLA摂取の併用によるWATベージュ化促進の検討 C57BL雄性マウスを、① TRも脂肪含量60%のHFD摂取もさせない対照群、② HFD摂取によって肥満させる群、③ TRのみを行わせる群、④ HFD摂取とTRの両方を施行する群に、9Z,11E-CLA摂取、非摂取を組み合わせた8群に分ける。TRは、回転ケージを用いた自発運動走もしくはトレッドミル走によるランニングトレーニングを実施する。9Z,11E-CLAは餌に混合するか、溶液を経口投与して摂取させ、WATのベージュ化に対する運動と9Z,11E-CLA摂取の併用効果を検討する。最初に基本となるTR期間(3ヵ月を予定している)と9Z,11E-CLAの摂取量(0.5 g 9Z,11E-CLA /100 g diet)を決定し、サンプリングした各脂肪組織を用いて検討を行う。この基本とする条件で効果が認めらえない場合は、運動強度・時間ならびに9Z,11E-CLAの摂取量を増加させ、更なる検討を行う。これらの検討から、WATのベージュ化促進につながる運動条件と9Z,11E-CLAの摂取量を決定する。 (2)9Z,11E-CLAによるベージュ化促進のターゲット分子の同定ならびに運動・9Z,11E-CLA摂取の併用によりWATで誘導されるシグナル伝達経路の同定 運動・9Z,11E-CLA摂取の併用によりWATで増強されるベージュ化促進のシグナル伝達経路を解析する。実際には、9Z,11E-CLAによるベージュ化促進のターゲット分子の同定を質量分析装置を用いたプロテオーム解析などで試みる。同定されたターゲット分子が実際に、TRと9Z,11E-CLA摂取の併用によってマウスのWATで観察されるか検討する。さらに、上記のターゲット分子が関連するシグナル伝達経路の上流ないし下流分子の変化も合わせて解析する。
|
Causes of Carryover |
試薬等の割引きにより差額が生じた。
|