2021 Fiscal Year Research-status Report
ドーピング禁止薬クレンブテロールの代謝物同時定量法の確立と薬物動態モデルの構築
Project/Area Number |
21K11375
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
内山 武人 日本大学, 薬学部, 教授 (90261172)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 葵 日本大学, 薬学部, 講師 (20513914)
青山 隆彦 日本大学, 薬学部, 講師 (70384633)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドーピング / クレンブテロール / 薬物代謝 / 同時定量 |
Outline of Annual Research Achievements |
医薬品の血中薬物濃度の経時的推移や尿中への排泄率などの薬物体内動態研究は、これまで疾患の治療を目的とした薬効の把握のために行われてきた。一方、治療目的ではなく競技能力の向上を目的として摂取されたドーピング禁止薬の代謝物に関する知見は非常に乏しい。アスリートが禁止薬を「故意」に摂取したのか、あるいは「うっかり」して摂取したのかを正しく判断する際に、代謝物に関する情報を的確に分析することは大きな意味を持つ。 本研究では、気管支拡張薬として用いられる一方で、筋肉増強薬としてドーピング禁止薬に指定されているクレンブテロールとその代謝物に着目する。クレンブテロールは古くから使われている薬剤であるにも関わらず、代謝物血中濃度の経時的変化についてはほとんど解明されておらず、クレンブテロールの代謝反応機構および関与する酵素に関しても詳細は明らかにされていない。したがってクレンブテロール代謝物の時間推移を明らかにすることは、クレンブテロールの薬物動態を理解することに繋がる。まず、想定される代謝物の化合物ライブラリーを化学合成法により構築し、化学合成した代謝物を標品として、クレンブテロールおよび代謝物の生体試料中濃度同時測定系を確立することが本研究の目的である。本研究により得られた知見は、ドーピング検査においてより正確な判定を可能とし、公正なスポーツを行うための活動に寄与できるものと考える。本年度は、代謝物の一つとして想定されているニトロ誘導体の大量合成法の確立に成功した。また、合成ニトロ誘導体を用いてクレンブテロールを同時に測定するLC-MS/MS条件検討をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クレンブテロール代謝物の化学合成法に関する報告はほとんどない。本年度は、代謝物の一つと想定されているニトロ誘導体の大量合成法の確立を試みた。まず、市販クレンブテロールを用いて、構造に含まれる芳香族アミンを選択的かつ化学的に酸化する方法を種々検討したが、目的とするニトロ誘導体を得ることはできなかった。そこで、逆合成解析を行い、入手可能な安息香酸誘導体を出発物質として用いて検討をおこなった結果、5工程、総収率41%で目的とするニトロ誘導体へと導くことができた。本合成方法はグラムスケールでの合成が可能であることを確認している。また、このニトロ誘導体は、クレンブテロールのもう一つの生体内代謝産物として想定されているヒドロキシルアミン誘導体への変換が可能な前駆体でもある。 合成ニトロ誘導体を用いることで、クレンブテロールを同時に測定するLC-MS/MSの条件検討をおこなった。検討の結果得られた測定条件は、ラット肝ミクロソーム中のニトロ化合物およびクレンブテロール同時測定にも適応可能であることが明らかとなった。 代謝物の体内動態情報が報告されているアセトアミノフェンをモデル化合物とし、薬物およびその代謝物の体内動態予測法を検討した。アセトアミノフェン体内動態情報およびその代謝物の構造式情報に加え、アセトアミノフェンを基質としたin vitro代謝実験結果を利用することにより代謝物体内動態を予測することが可能であった。
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Strategy for Future Research Activity |
大量に供給可能となったニトロ誘導体を用いて、クレンブテロールの主要代謝産物の一つと予想されているヒドロキシルアミン誘導体への変換法を検討する。さらに、クレンブテロールの不斉炭素に着目した光学分割とグルクロン酸抱合体の化学合成の検討を行う。クレンブテロールの立体化学と代謝物の関係を明らかにすることは、ドーピング検査のみならず、医薬品としてより良い治療を患者に提供する上でも重要である。 ラット血漿および肝ミクロソーム中におけるクレンブテロール濃度測定系は確立していることから、化学合成された代謝物を標準品として用い、ラット血漿、肝ミクロソーム、ヒト肝ミクロソーム中の代謝物濃度同時測定系を構築する。また、特定の代謝酵素の分子種を高発現させたリコンビナント酵素を用い、クレンブテロールの代謝に関わる代謝酵素の分子種を同定する。同定できた代謝酵素分子種については、酵素速度論的検討を行い、代謝活性を測定する。 ラット血中におけるクレンブテロールと代謝物濃度の経時的推移、尿中排泄速度データ、代謝酵素の速度論的データを用いて生理学的薬物動態モデルを確立するとともに、ヒトの生理学的パラメータにスケールチェンジすることによりヒトの生理学的薬物動態モデルを構築する。さらに、本研究において得られたヒト肝ミクロソーム等の実験データおよびクレンブテロール血中濃度経時的推移の文献データを活用し、メタ解析を行うことによりヒト体内動態の推測と予測精度の向上を図る。本研究の最終目標の一つは、より確度の高い薬物動態モデルを提供することである。
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