2022 Fiscal Year Research-status Report
有酸素性代謝能力を効果的に向上させる低酸素環境を利用した持久的トレーニングの探索
Project/Area Number |
21K11380
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
高倉 久志 同志社大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (20631914)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 低酸素暴露 / ミトコンドリア / エリスロポエチン / HIF-1α / 筋有酸素性代謝能力 / 筋組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
持久的競技パフォーマンスを向上させるための低酸素環境を用いた最適な運動トレーニング(TR)方法についてはその解明に至っていない。これまでの研究において、低酸素暴露かTRを単一の刺激因子として用いた場合は、持久的競技パフォーマンスに関与する別の要因をそれぞれ向上させるものの、低酸素暴露とTRの併用はそういった適応を消失させた。昨年度までに、腎臓を対象に様々な低酸素暴露条件の影響を検証した際には、赤血球産生に重要なエリスロポエチンのmRNA発現が、12%O2の低酸素環境下であれば3時間以上の暴露によって増加した。したがって、短時間で十分な低酸素応答を引き起こすためには、少なくとも12% O2よりも厳しい酸素濃度条件で少なくとも3時間の暴露時間を設ける必要があることが示唆された。その一方で、筋組織に対する検証は不十分であったため、腎臓と同様の検証を実施した。 被験動物には9週齢のWistar系雄性ラットを用いた。低酸素暴露時間の条件として1, 3, 6, 24時間と対照群を含む5条件を設定し(この際の酸素濃度は12.0%O2とした)、暴露させる低酸素濃度条件として20.9%O2, 17.7%O2, 15.4%O2, 12%O2の4条件を設定し(この際の暴露時間は3時間とした)、それぞれの刺激条件に対する筋有酸素性代謝に関わる因子のmRNA応答(Pgc1α, Myoglobin, Citrate Synthase, Hexokinase II)について検証した。その結果、筋組織においては最も条件の厳しい12% O2での暴露であっても24時間までの暴露時間では上記因子のmRNA応答に顕著な変化は認められなかった。したがって、低酸素暴露のみの刺激条件においては、腎臓における造血作用を亢進した一方で、筋組織の代謝能力については持久的運動に不利となるような応答を示さないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題では、低酸素環境と運動トレーニング(TR)を併用した場合に持久的競技パフォーマンスに関わる要因の向上を抑制した原因を明らかにするとともに、低酸素環境を用いた新たなTR方法について検証することである。本年度は主に筋組織を対象に、どの程度の酸素濃度、どの程度の低酸素暴露時間によって低酸素応答が生じるのかについて検討した。しかしながら、本来の予定では、低酸素刺激終了後24時間目まで低酸素刺激に対する応答の経時的変化をmRNAレベルで明らかにし、一過性の低酸素刺激による応答がどの程度まで残存するのかを検討し、その結果に基づいた低酸素環境を用いた運動トレーニングを実施することまでを実験予定としていたため、達成度は遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、低酸素刺激による応答が低酸素刺激終了後から何時間程度持続するのかについてと、一過性運動による応答が運動終了後から何時間程度持続するのかについて検証を行う予定である。その次の段階として、これらの検証結果と、これまでの研究で明らかとなった低酸素暴露かTRを単一の刺激因子として用いた場合は、持久的競技パフォーマンスに関与する別の要因をそれぞれ向上させるものの、低酸素暴露かTRの併用によってそういった適応が消失したという結果を踏まえて、低酸素暴露とTRを併用した場合にでも、それぞれを単一の刺激因子として用いた場合に獲得できる応答や適応を消失させないようなTRプログラムを考案し、その検証を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本年度の研究計画では、低酸素刺激終了後24時間目まで低酸素刺激に対する応答の経時的変化をmRNAレベルで明らかにし、一過性の低酸素刺激による応答がどの程度まで残存するのかについて検討し、その結果に基づいた低酸素環境を用いた運動トレーニングを実施することまでを実験予定としていたが、それらが実施できなかったため次年度使用額が生じた。当該内容に関係する実験については次年度実施する予定であり、それに係る実験動物や消耗品などの購入に充てることとする。
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