2021 Fiscal Year Research-status Report
高酸素暴露刺激は運動性の記憶・学習機能向上効果を模倣する
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21K11388
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉里 秀雄 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40303721)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高酸素 / 記憶学習機能 / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、身体運動による記憶・学習機能向上効果を酸素吸入刺激によって模倣できるかどうかについて検討することである。最近我々は、海馬の組織酸素分圧を上昇させる刺激として高酸素曝露を見出し、比較的マイルドな高酸素曝露刺激が運動性の海馬組織酸素分圧の上昇反応と極めて類似することを示す知見を得ている。そこで実験動物を用いて高酸素ガス(30%以上)曝露後の空間認知テスト評価と海馬組織における神経栄養因子群の発現変化および神経新生などの変化から高酸素曝露刺激による記憶・学習機能向上効果について検討を行った。実験動物を濃度の異なる高酸素ガス(30,60,100% O2)と空気(20.8% O2)を曝露する群の4グループに分けた。30分/日で10日間ガス暴露を行い、その後3回の水明路学習と記憶テストを行った。その後、安楽死させ海馬・皮質・中脳を取り出し各脳組織中の記憶関連物質である脳由来神経栄養因子(BDNF及びインスリン様成長因子(IGF-I)遺伝子発現とアポトーシス関連遺伝子であるBax及びBcl-2遺伝子発現をリアルタイムRT-PCRによって半定量測定した。その結果、海馬及び皮質におけるBDNF及びIGF-I遺伝子発現が30%酸素ガス暴露したグループに顕著に増加する傾向を捉えた。60, 100%酸素ガス曝露では変化が無く、むしろ低値を示す傾向が見られた。またアポトーシス促進因子であるBaxは、100%酸素ガス曝露で増加し、アポトーシス抑制因子であるBcl-2は30%酸素ガス曝露により増加する傾向を示した。このことから30%程度(60%以下)の比較的マイルドな酸素ガス刺激は、脳内の記憶関連物質の増加を促し、学習・記憶機能を向上させる可能性があることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動刺激によって脳海馬や皮質で記憶関連物質であるBDNFやIGF-Iが増加することが知られているが、これと類似の反応が高酸素刺激により再現することが出来る可能性を示唆する結果を得ることができた。また運動処方で得られる記憶・学習効果の特徴として高強度よりも低強度の運動の方が効果的である報告が多くあるが、酸素刺激も比較的マイルドである方が効果的である結果が得られた。1年目の課題は、十分に達成されたと考えらる。
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Strategy for Future Research Activity |
脳内の物質的変化を確認することが出来たので、これらの分子機能が行動機能(記憶・学習機能)に表現されるかどうかについて検討する。異なる濃度で酸素刺激し、モリス水迷路テストを行う。水温24±2℃の白濁させた水のプール上部に設置したスタート地点からマウスを入水させ、プラットホームにたどり着く時間を計測する。これを1日3回、4日間行い、プラットホームまでの所要時間の推移から学習機能を評価する。学習テスト最終日から24時間後に記憶テストを行う。記憶テストはプラットホームを取り除いたプールでマウスを泳がせ、本来プラットホームがあった領域に滞在している時間を計測し、滞在時間の長さで記憶機能を評価する。
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Causes of Carryover |
実験補助者の都合により、実験グループ(実験動物数)数を1つ減らした結果、使用額が減少した。今年度は実験グループを増やす予定である。また行動実験の改善に必要となる物品(消耗品)の購入を予定している。
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