2021 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋におけるアンドロゲン受容体のパイオニア因子の同定・解析
Project/Area Number |
21K11439
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
横山 敦 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (20572332)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アンドロゲン / 骨格筋 / 筋力増強 / パイオニア因子 / 核内受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高齢化社会を迎えた本邦における健康寿命の延長は社会的に喫緊の課題である。要支援の主な原因となる転倒/骨折を予防するためには筋力強化が重要である。現在のところ、筋力強化に資する代表的な分子はアナボリックステロイドであるアンドロゲンであるが、心血管イベントを中心に多様な副作用リスクを有し問題である。アンドロゲンはアンドロゲン受容体(AR)を介してその作用を発揮する。ARをはじめとする核内受容体は、これまでリガンドと結合することでDNA上の結合配列に結合し標的遺伝子の発現を制御すると考えられてきた。だが近年、これらの結合配列近傍には“パイオニア因子”と呼ばれる別の転写因子群が存在し、核内受容体の組織特異的な転写調節能を規定していることが明らかとなってきた。しかしながら、骨格筋におけるARのパイオニア因子の詳細は全く不明である。この因子は骨格筋のアンドロゲン応答能を規定していると予想される。そこで本研究では、新たなプロテオミクスの手法を導入することで、骨格筋細胞におけるARのパイオニア因子を同定・解析することを目的としている。本研究の成果はサルコペニアなどの筋力低下疾患に対する副作用の少ない治療法開発につながることが期待される。 本年度の実験では、このプロテオミクスの実験材料とするための培養筋管細胞を用いたアンドロゲン応答系の構築を行った。マウス由来筋芽細胞C2C12細胞を用いてDHTに感度良く応答する培養細胞の樹立に成功した。次年度より、この細胞を用いたプロテオミクス実験を進めARのパイオニア因子の取得を行いたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実験では、プロテオミクス実験であるRIME(Rapid immunoprecipitation mass spectrometry of endogenous proteins)法の材料とするための培養筋管細胞を用いたアンドロゲン応答系の構築を行った。マウス由来筋芽細胞C2C12細胞にレトロウイルスを用いてFLAGタグ融合マウスアンドロゲン受容体(AR)遺伝子の導入を行い、FLAG-ARの安定発現細胞株を樹立した。続いて、この細胞を100%コンフルエントまで培養した後に2%ウマ血清入培地で4日間培養することにより筋管細胞へと分化させた。FLAG-AR遺伝子の導入の有無は筋管細胞への分化への影響を認めなかった。続いてこの分化した筋管細胞へDHTを添加し遺伝子発現を定量的PCRにより検討した。その結果、FLAG-ARを発現し分化した細胞群において特異的にMylk4(Sakakibara I et ak., iScience, 24, 4,102303)をはじめとするアンドロゲン応答遺伝子の誘導が確認された。このことは、FLAG-AR遺伝子を発現した細胞では、筋管細胞へと分化させることで未知のパイオニア因子の働きによりの応答遺伝子のクロマチン環境の変化が生じAR標的遺伝子の誘導が生じたと考えられる。したがって、樹立した本細胞は当初の目的である筋管細胞特異的なARのパイオニア因子を取得するためのよい材料であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度からは、本年度に樹立したアンドロゲン受容体安定発現C2C12細胞を用いたRIMEを行っていく。具体的には、10 cmディッシュ5から10枚分の細胞を100%コンフルエントになるまで培養し筋管細胞へと分化させる。その後、DHTを添加し8時間後に細胞を回収する。細胞をホルマリン固定した後に、RIME法の規定の方法にによりARインターラクトームの同定を行う。同定された因子群の中から、既存のヒストン修飾酵素、ATP依存性クロマチンリモデリング酵素等の転写共役因子を除外し、DNA結合ドメインを有する因子をARパイオニア因子候補として抽出する。続いてこれら遺伝子を樹立した細胞株においてゲノム編集による遺伝子ノックアウトを行いアンドロゲン応答遺伝子誘導への影響を評価する。これにより、筋管細胞特異的なARパイオニア因子の絞り込みを行う。 絞り込みが完了した後には、ARや新規パイオニア因子の抗体を用いたChIPシークエンス解析を行い培養筋管細胞内、もしくはマウス筋肉組織内におけるアンドロゲン応答遺伝子付近へのリクルートを確認する。これにより、骨格筋におけるARのパイオニア因子とARの標的遺伝子を網羅的に同定していきたいと考えている。
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