2021 Fiscal Year Research-status Report
SARS-CoV-2のS1による全身性炎症に対する運動の予防効果とメカニズム
Project/Area Number |
21K11472
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
白土 健 杏林大学, 医学部, 学内講師 (60559384)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新型コロナウイルス / SARS-CoV-2 / スパイクタンパク質 / マクロファージ / 炎症性応答 / 習慣的運動 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質によるマクロファージの炎症性応答に対する習慣的運動の効果を検討した。4週齢雄性C57BL/6Jマウスを自発走運動群および対照群に分けて10週間飼育した後、腹腔滲出マクロファージを採取して、SARS-CoV-2リコンビナントスパイクタンパク質S1サブユニット(S1:100 ng/ml)またはリポ多糖(LPS:100 ng/ml)で刺激した。培養上清中に分泌されたインターロイキン-6(IL-6)の濃度をELISA法で測定した結果、S1およびLPSによるIL-6の分泌誘導の程度はいずれも両群間で有意な差が認められなかった。従って、習慣的運動は、少なくともマウス腹腔滲出マクロファージのS1およびLPSに対する感受性には影響を及ぼさないと考えられる。 一方、本研究課題の申請時、toll様受容体4(TLR4)のアンタゴニストとsiRNAを用いた実験によって、S1はLPSと同様にマクロファージのTLR4を介して転写因子NF-κBおよびc-Jun N末端キナーゼJNKを活性化することでIL-6のmRNA発現誘導を促すことをすでに報告していた(Shirato and Kizaki: Heliyon 7: e06187, 2021)。本年度は、S1によるIL-6のmRNA発現誘導は分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼMAPKのキナーゼ阻害剤U0126によってほぼ半減するが、LPSによるこの炎症性応答に対しては抑制効果が認められないことを明らかにした。以上より、S1とLPSはTLR4を介して炎症性応答を引き起こすことは共通しているが、その細胞内シグナル伝達経路には相違があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の申請当初、令和3年度は、SARS-CoV-2のS1による全身性炎症におけるTLR4の役割を明らかにすることを目的としていた。しかし、その後の国外における最新の研究によって、SARS-CoV-2感染による全身性炎症はTLR2を欠損させることで大きく抑制され、マクロファージの炎症性応答には主にエンベロープタンパク質が寄与していることが報告された(Zheng, et al.: Nat. Immunol. 22, 829-838, 2021)。そのため、本年度は、自発走運動および対照マウスから採取したマクロファージを用いたS1による炎症性応答の比較検討に留まった。一方、S1によるマクロファージの炎症性応答のメカニズムについて新たに知見を得て、論文として纏めて査読付き欧文学術誌に公開することができた(Shirato, et al.: Molecules 26: 6189, 2021)。以上の背景を総合的に考慮し、本研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、本研究課題の申請当初に予定していたS1に加えて、エンベロープタンパク質による全身性炎症に対する習慣的運動の予防効果を個体・細胞レベルで検討する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は生じたが、令和3年度の研究予算は99.7%以上を執行した。残額は令和4年度の物品購入(少額の実験消耗品)に活用する。
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