2023 Fiscal Year Research-status Report
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21K11641
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Research Institution | National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition |
Principal Investigator |
坪山 宜代 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター, 室長 (70321891)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 災害 / 栄養 / 備蓄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は自然災害やパンデミック時において、食・栄養不足を回避するために家庭での食料備蓄を促進することを目的としている。依然として進まない家庭備蓄に対する意識を変えるために、「義務的」な後ろ向き意識を伴う備蓄ではなく、むしろ「備えたくなる備蓄」に転換させるために、旧来とは異なる新しい切り口のアプローチに向けた調査(質的研究含む)および開発を実施する。これより、家庭での食料備蓄を促進させ災害時・緊急時の栄養不良を軽減させるとともに、平時の食・栄養への意識を高めることも目指す。 三年目である2023年度は、昨年度までに実施した「備えたくなる備蓄」の調査について、質的記述的分析を行った。特に「どんな災害食が欲しいか」という設問について質的に分析したところ、「対象者にあわせた災害食」、「簡単で食べやすい」、「保存・保管しやすい災害食」、「栄養のある災害食」、「種類が多い・組み合わせができる」、「日常でも食べられる・災害時だけにとらわれない」、「美味しい」、「食べる温度を考えた災害食」等のカテゴリーが抽出された。これらを反映させた「備えたくなる災害食」の開発が求められる。 また、自治体の計画において家庭備蓄に関してどの程度記載されているのか、大阪府吹田市の備蓄計画等を事例として質的に分析した。自助・共助での備蓄については主食のみならず副食について記載があることが明らかとなり、自治体においても家庭備蓄の推進に努めていることが明らかとなった。 さらに、2023年度は関東大震災から100年目であったため、関東大震災時の食・栄養に関する文献をレビューし、演繹的に分析した。100年前の関東大震災時においても食料の備えが十分でなく、発災2-3日間は食べられなかった人が何万人もいたことが明らかとなった。一方で、政府による軍艦を用いた大規模食糧輸送が行われており、速やかな食料支援も行われていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では家庭備蓄が進まない現状を変えるために、「備えたくなる備蓄」に意識転換させ、旧来とは異なる新しい切り口のアプローチを探索することを目的としている。 2023年度は、令和6年能登半島地震が発生し、発災時の後方支援等の支援活動が多く発生していた中においても滞りなく研究を進めた。特に、「備えたくなる備蓄」としてどのような災害食が求められているのかについて質的記述的分析を行い、求められる主要なカテゴリーを明らかにすることが出来た。どのような災害食を開発し普及させることが期待されているのかについて、旧来とは異なる新しい切り口のアプローチに向けた大きな意味をもつ分析結果を得た。また、食料備蓄に関する現在の自治体における取組状況および過去の歴史として100年前の関東大震災時の食料備蓄についてもレビューを行い原著論文として報告した(坪山(笠岡)ら.日本災害食学会誌. 2024 他1報)。 以上より進捗状況を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に引き続き、「備えたくなる備蓄」の調査結果の質的記述的分析を進める。 今年度は「どんな災害食が欲しいか」について質的記述的分析を行い、主要なカテゴリーを抽出することが出来た。そのため2024年度は、「備えたくなる備蓄」として旧来とは異なる新しい切り口の災害食の開発に着手する。しかしながら、災害食を開発するだけでは「備えたくなる」方向へ意識を転換することは不十分であると考えられるため、今年度は特に、食料備蓄を進めるための仕組みにも着目する。具体的には、「どうして日本の家庭備蓄が増えないと思うか」、「家庭備蓄をUPするにはどのような方法や仕組みが欲しいか」について、オンライン調査で得られた自由回答のテキストデータを用いて質的記述的解析を行い、食料備蓄促進につながる仕組み構築の糸口を探る予定である。 さらに、今年度実施した自治体における食料備蓄の質的分析から、家庭備蓄についても自治体は積極的に進めていることが明らかになったため、それらの取り組みの状況や備蓄率促進に向けてさらなる取り組みについて、社会実装を目指して対策方法を検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)申請時に予定していた対面での調査を、当時は新型コロナウイルス感染症が蔓延していたことにより実施しなかったため。具体的には、国内外の備蓄に関連する事例について、現地を訪問しての調査を予定していたが訪問しなかった。しかしながら、研究成果の遅延を招かないため、オンラインに切り替えて調査を行ったことにより、当初予定していた以上の対象者の数を集めることができ、より幅広く、より多くの意見の収集が可能となり大きな利点を得ることが出来た。オンラインで行ったため、出張費やその他の必要経費を使用しなかった。 (使用計画)2024年度には、オンラインに切り替えて行った調査により得られた結果で当初の目的とする結果が十分に得られたか、対面で行う予定であったインタビュー調査で補完する必要があるのか否かを丁寧に検討し、必要性が判断できた場合には、現地への出張費やその他関連費用を予定している。しかし、代替案として実施したオンラインを用いたウェブ調査で、有用な情報が得られているため、引き続きオンラインを中心とした形でより拡大した調査フォーマット作成、対象者への謝礼等を予定している。 それらの成果を国内のみならず海外の学会において発表するため渡航費を予定している。英文誌においても研究成果を発表する予定であるため、英文校正、査読費用、掲載料等にも使用を予定している。
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[Book] 災害食の事典2023
Author(s)
日本災害食学会監,坪山(笠岡)宜代編集幹事
Total Pages
312
Publisher
朝倉書店
ISBN
978-4-254-61066-6